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第103話
この円卓を囲めるのは洗練された人間だけだ。
彼らの洗練の基準は、由緒正しき血統と底つきぬ財源、優れた才能と容姿である。
(どこにそんな連中がいるって?)
ジョージ・バーンはその円卓のひとつに座る事を許されている。由緒正しい血統以外当てはまらぬ自分がだ。
「スターシールドの修復はいつ頃になりそうかね?穴が空いたままでは恥さらしもいい所だ」
「迅速に対応しておりまして詳しい事はまだ…」
「全くお飾り市長は呑気でいいねぇ。私のところは―」
嫌味など耳には入らない。何せ気持ちはあの瓦礫の中に取り残された愛娘にだけ向けられているのだから。
「ははは、先生言いすぎですよ」
ジョージだけでは無い、そこで偉そうにふんぞり返っている連中は皆もう少ししたら死にそうな老いぼれだ。優れた才能も無ければ美しい容姿なんてものはとっくの昔に枯れている。
「まあまあ、せっかくのお食事会なのですから。あら?召し上がられないの?」
「…いえ、頂戴しますよ」
厚化粧にヒビが入った貴婦人は、ニッコリとジョージに笑いかけた。美しさに取り憑かれ、元の顔が分からなくなるほど手を加えられている。彼女だけではなくここにいる殆どの人間が自らの『老い』を恐れ改造に勤しんでいるのだ。
(…なぜこんな所で…くだらない時間を浪費しているのか)
大好きなローストビーフは味がせず、その塊を飲み込む事も一苦労だ。彼は温かい食事が与えられるとき、清潔な寝床に着いた時、こうして普通に生活している時でさえ罪悪感を感じている。
(あの子は今も凍えているかもしれないのに!)
ジョージにとってサロメはたった一人の家族だ。もちろん彼らとの交流会はこの世界で生きていく上では必要だが、一刻も早く彼女の居場所を突き止めて力いっぱい抱きしめたかったのだ。
斜め前の席、そこは空白だ。(ヤツめ、何かと言い訳を付けて欠席か?)と心細さを隠すように毒づく。周りが会話に花咲かせようが、ジョージは一切自分から会話に入ろうとはしない。
「出たらしいわよ。オークションで。"不死身の男"が」
「…それは本当の話なのか?嘘くさい」
「ええ、本当よ。ほら、あそこの席のトマス先生がそう吹聴して回っていたそうよ。それに情報局が開示に応じなかったとか…」
「『新優生者創造計画』が現実味を帯びてきたということか」
『不死身の男』、それはウンザリするほど聞いた話だ。ジョージは脳裏にある女の顔が浮かぶ。
『不死身の男を渡す代わりに『帝都通行証』を頂けるんですよね?』と高くか細い声。
(しかし偽の通行証だと分かった瞬間攻撃してくるとは…)
スターシールドに攻撃を命令したのは王国打倒委員会だ。ハッキリとした証拠はまだ上がっていないが、これはあの薄気味悪い女の報復である。
王国打倒委員会の幹部、自らを『聖女様』と呼ばせる痛々しい女。連中は娘を騙し、丸め込んで道を外させた洗脳集団だ。 サロメは何度も何度も警察に御用となり、それでもなお『友達』、『仲間』だと認識しているのだから重症である。
娘の為ならジョージが何でもすると分かっているからか、連中には金や権力を随分利用されてきたものだ。
(それももう終わらせる。父親が娘を正しき道に導く、それは当たり前のことだ)
ザワっとその場が沸き立ったのは品のある、だが派手なスーツを着こなしてやってきた男のせいだろう。
「GF さん、久しいですわね。ここ一年全く出席されていなかったからご病気かと…」
「いやぁ、心配させてしまって申し訳ない。単に仕事が忙しくて」
白髪混じりの髪をかき上げ、笑顔を作る男は女性陣からの注目の的だ。目を輝かせその男に向けて猫なで声を発する女性たち、それを見て他の男性陣はヒソヒソと『バッジ付きの癖に』と口にした。
「やあ、バーン市長。お久しぶりです」
「……ええ、そうですね。」
彼はジョージの斜め前の空白に座る。自然体で優雅なのはこの男くらいだ。
「大変だったでしょう?街があんな事になって」
「…そちらこそ色々と尽力して頂いたようで」
「いやいや、僕は当然の事をしたまでですよ。」
二人は食事をしながら当たり障りのない会話を重ねた。腹の探り合いと言ったところだ。
「そういえば聞いています?皇室親衛隊に新しいメンバーが追加されるらしい」と男はテーブルを意味深に三回指で叩いた。
「…へえ、そうなんですね」
「ほら、あそこの席のあの若い女性」
見てみろと言わんばかりに男はジョージの後ろを指さす。
「―ッ!あの女は…」
「しーっ!驚きだよねぇ…こんなおじさんしか居ないような所に。」
保守党衆議院議員の隣の席。気味の悪い笑顔を浮かべた"聖女様"が酒を飲みかわしている。
「あら?GF さんはあんな女が好みなのかしら。彼女、王国打倒委員会と繋がりがあるらしいわよ。」
何故?…あの女は優生者ではない。なのに何故帝都に。
だらだらと汗がヌルりと脂肪の間に溜まる。ハンカチを拙い手で取り出し、自分の後頭部に鋭い視線が刺さっていることに気がついた。
見ているのだ。あの女が。
(俺を殺しに来たのか?それとも何かよからぬことを…)
フォークが震えた腕に当たりカランと床に落ちる。
まだ見ている。その鋭い眼光で。
「―バーン市長、一人で心細いので良かったら一緒にどうです?」
「え?」
「下の階に珍しい形をした彫像が飾られていたんですが。食事も終わっているようなので見に行きません?どうやら新人の彫刻家らしい」
空っぽになった皿、いつの間にか癖のように口に運んでいたのだろう。
「ええ、是非。さ、最近ゲイジュツの良さが分かり始めた頃だったので」と嘘をついて汗だくの体をのそのそ動かした。
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