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第106話
紙と一緒に流れた欲望は、渦を巻いて吸い込まれていく。熱の飛んだ体に残ったのは虚しさと罪悪感と、…次の熱の予兆だ。
人がいると眠れない、それは昔からである。それ以上にウィルソンを抱えて眠るのは辛いものがあった。
際限のない肉欲で穢している、無垢な寝顔を。理性が保っているうちはいいが、いつボロボロと崩れ落ちるか分からない。
(オカズにするくらいは許せ)と自分の行為を正当化して欲を発散させたのだ。証拠は隠滅済み、ウィルソンに気が付かれることは無い。
ノエルはリビングのソファーに腰を下ろして、フェルトマイアー宛に報告書を作成することにした。
帝国立大学のチュン・ドーと話した内容、孫のバオン・ドーの迎えを止めさせて欲しいという切実な願いを綴る。
(……神経工学のチュン・ドーか…。課長は一体どれ程人脈があるんだ。)
フェルトマイアーは『帝国をぶっ潰す』と軽々しく言った。それが本気なのか、…何かの陰謀を隠すためのフェイクなのかあの笑顔の元では分からない。
(それに…俺は何かを試されている)
誤字脱字が無いか確認し後は送信するだけという時、『リク・サコダから着信です。応答しますか』と邪魔が入った。
(…そういえばサコダはヒラキ・ライトの捜索をしていたはずだ…)
ノエルにはなんの情報も入ってこない。恐らくウィルソンに伝わってしまうのを避けての事だとは思うが、仕事とプライベートは必要なら分けられる。
ちらりと寝室の方に目を向けウィルソンが起きてこないことを確認した。
「…はい」
『先輩、良かった出てくれた』
彼は映像を非表示にしているようだ。真っ暗な画面が映し出されている。辺りはしんと静寂を守り、少し苦しそうな呼吸音がよく聞こえた。
「…ヒラキ・ライトはどうなった?見つかったのか」
『えっと…その〜その話は明日本庁でするんで。仕事の話じゃないと言うか…』
仕事の事では無いのに連絡をしてくるな、ノエルはそう冷たく言い放って、面倒そうにため息をついた。
「…何の用だ。もう日付が変わる」
『…いや、先輩元気かなあ〜って!気になったんすよ』
「………」
まさかこいつはわざわざ夜更けに連絡を入れてそのような会話がしたかったというのか。
「切るぞ」
『あー!ちょい待ち!…そういえば先輩今から寝るんすか?』
「…お前が邪魔しなければそうするつもりだった」
『ははは!そーすよね!そういやあのおにーさんはどこに?』
「…お前に関係ない」
サコダは話す内容が無いのに無理に会話を引き延ばそうとしている。五分ほど彼のどうでもいい話を聞かされるという拷問に耐えていたが、零時を過ぎたので終わらせる事にした。
「話すことが無いから切る」
『……そーすね。俺も話す事ないんで。んじゃ、また明日』
ブツンと切断された通話。空間には提出する予定の報告書だけが浮いている。ノエルはそれを送信して、「……なんなんだあいつは…。」と一人呟いた。
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