107 / 107

嫌がらせ 第107話

玄関に積まれたダンボールはフェルトマイアーが気を利かせて様々な日用品を送ったせいだ。箱の底が抜けそうなほど詰め込まれていたようで運んできたロボットからは煙が上がっていた。   「ウィルソン、悪いがこれを中に運んでおいてくれ。俺は本庁に行かないといかんくてな」 「分かった。…大丈夫か?やはり寝れなかったんだな。忘れ物は?」 「ない。」    目の下に黒い隈を作ったノエルを見て、彼は複雑そうに眉を下げた。     きらりと光った秩序維持課(バッジ付き)の尾を食らう蛇を指先でちょんとなぞり、「気をつけてな」と言った男はロボットでも辛そうだった箱をひょいと持ち上げ中へ運んでいく。   「行ってくる」    扉がガチャンと閉じて、鍵がしっかりと施錠される。それを確認した男は最後の箱をリビングに連れていくと、早速中身の確認を始めた。   「ちゃんと頼んでいたものを入れたんだろうな」   一つ目の箱は高そうな服、二つ目の箱は一ヶ月分の食料にウィスキー、もう一つは憎たらしくて愛らしい見慣れた掃除ロボットだ。   「良かった、ちゃんと入れてくれていたんだな」と歓喜の声を上げる。動作確認の前に男は掃除ロボットのダストボックスを開けた。    中にはゴミを吸うための空間などない。あるのは配線に繋がれた小型銃だ。   「…触った形跡は無い。銃弾も込められたまま」    配線を指先で掻き分け、一枚のカードを引っ張り出した。手のひらの上、優しい男の顔が血で汚れる。それはヒラキ・ライトの身分証明書だ。   「…ヒラキ……」          あの日、ウィルソンは正しい事をした。彼を守る為ならば他の人間などどうでもいいと本気で思っての行動だ。      性の女神の元に転がる死体、ぶよぶよの肉塊、それらをカラフルに照らすネオン。赤い点滅を繰り返す監視プログラム。    自分の左手に握った拳銃から微かな硝煙。 色合いの違う瞳の間、空いた闇の穴はぐじゅぐじゅと湿った音を鳴らしていた。    男は全て隠蔽しなければという使命感に駆られる。それは大切な家族である自分のやるべき事だと。   『二つの事件の犯人はちゃんと自首してきたよ。…君の知り合いだったかな?…ベン・カインって』    ティースプーンをクルクル回しながら、勘の鋭い友人はその胡散臭い笑顔をそのままに饒舌に話し始める。   『…調べた所によると彼はどこにでもいる普通の会社員らしい。一人娘を頑張って育てる健全な親、……そんな彼が王打会に唆されて帝国警察の捜査員を二人殺し、デリカロッドでも……考えにくいよねぇ』  "お前が全て仕組んだことなんだろう"とその男は言っている。   『酷い男だね、君は。一体どんな手を使ってそこまで手懐けたんだい?まさか監視プログラムまで欺くとは…随分凄腕の知り合いがいるようだ』    その探りにただ微笑みを浮かべ『知らない』と答えて以上終了だ。    罪を誰かに擦る。それは絶対にヒラキは望んでいない。しかしウィルソンは自分には彼を守る責任があると思い込んでいる。   『化け物!!お前のせいで俺はちっぽけな幸せすら掴めないんだぞ!』 『俺はただ幸せな家庭が欲しいだけなんだ!なのに…』 『お前さえいなければ!』 『二度と俺に関わるな!』      脳裏に蘇った記憶。胸を抉るような言葉の数々、それらを叫んだヒラキの心もまた抉り取られボロボロだ。   「…私はお前が傷つく事は何一つ望んでいない。」    澄んだ瞳はその冴えない男の顔に飛んだシミを爪で剥ぎ取った。    ―ガチャン、玄関の扉が開く。どうやらノエルが忘れ物でもしたのだろう。ウィルソンはその身分証明書をポケットに突っ込んだ。    

ともだちにシェアしよう!