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◾️第7章 先生に元彼がいるなんて聞いてない
合宿から戻って数日後、学園内の空気が微妙に変わった。
とある噂が回っていた。
「神崎先生の元恋人は、転籍された久世先生らしいぞ」
「しかも今も連絡取ってるって話だよな……」
自習室でそんな会話が耳に入った瞬間、俺の胸の奥がざわついた。
魔力が勝手に乱れ、うなじから苦い熱が漏れ出す。
(……元彼? 久世先生……?)
授業中、透の声がいつもより遠く感じられた。
指先や唇の動きを見るだけで疼いていた体が、今日は妙に苛立っている。
****
放課後、個人指導の個室。
俺はドアを閉めるなり、透に詰め寄った。
「先生。久世先生のこと、本当ですか?」
透は眼鏡を軽く押し上げ、淡々と答えた。
「誰から聞いた?」
「みんな噂してます。先生の元恋人だって……今も連絡してるんですか?」
声が少し尖っていた。
透は椅子に腰掛けたまま、俺を見上げた。
「過去の話だ。今は関係ない」
「関係あります!」
俺は一歩近づき、透の目の前で拳を握った。
「先生のうなじ、どこ触られたんですか? その人にも……俺と同じように、魔力流し込まれたんですか? キスとか……舐められたりしたんですか?」
言葉が止まらなかった。
嫉妬が、熱い塊になって胸の奥で暴れ回る。
透の表情がわずかに変わる。
「七瀬。落ち着け」
「落ち着けません! 先生の全部、俺のものにしたいのに……その人に触れられた部分があるなんて、聞いてない……」
魔力が激しく揺らぎ始めた。
うなじから漏れる魔力が、普段より濃く、暗い色を帯びてくる。
透が立ち上がり、俺のうなじに指を伸ばした。
「暴走するな。我慢——」
「我慢しろ、とか言わないでください!」
俺は透の手を振り払おうとしたが、逆に腕を掴まれ、壁に押し付けられた。
「っ……!」
透の体が密着し、低い声が耳に落ちる。
「嫉妬で魔力をこんなに乱すなんて……お前、本当に重いな、七瀬」
「……重くていいですよ。先生が俺だけのものじゃないなんて、嫌です」
指がうなじに深く沈み、強引に魔力を流し込まれる。
でも今日は、いつもより荒々しい。
「あ……っ、んん……!」
内側が熱く掻き回され、快感と苦しさが混じり合う。
嫉妬が性欲を異常に高め、蜜穴のように敏感になった部分がとろとろに蕩けていく。
「先生……っ、もっと……俺に、刻み込んで……その人より、俺を……」
「欲が歪んできたな」
透の言葉責めが、逆に俺の興奮を煽る。
「はぁ……っ、あん……! 先生の魔力、熱い……奥まで、先生の形に……してほしい……」
魔力の暴走が激しくなり、部屋の空気が震え始めた。
透は俺を抱きかかえるようにして、なんとか抑え込もうとする。
その時、個室の外から声がした。
「晴? 大丈夫か?」
仁だった。
俺の魔力の乱れを感じて、駆けつけてきたらしい。
透が俺を離し、ドアを開けた。
仁は傘を持っていた。
外は突然の夕立が降り始めていた。
「仁……」
「晴、ちょっと外の空気吸おうぜ」
****
仁に連れ出され、俺は雨の降る校庭を歩いた。
仁は傘を俺にかけてくれながら、静かに言った。
「先生のことで……また、荒れてたのか?」
「……好きすぎて、しんどい。先生の過去とか、全部知りたくて……でも、知ったらもっと苦しいのに」
仁は黙って俺の肩に手を置いた。
その優しさに、つい甘えてしまう。
そのまま仁の部屋に。
「……仁、ごめん」
「いいって」
仁は、何も言わず俺を抱きしめる。
俺の中に、友情の優しさが広がり、荒れていた感情を少しずつ溶かしていく。
でも、心の奥底の疼きは、やはり透の名前を呼んでいた。
激しく乱れた後、俺は荒い息を吐きながら、仁の胸に額を預けた。
「……ありがとう、仁」
少しだけ微笑んで、そう言った。
仁は俺の髪を優しく撫でながら、静かに微笑み返した。
「……うん」
その笑顔の裏で、仁の心は静かに痛んでいた。
(やはり……俺じゃ、ダメなんだな……)
晴の体はここにあるのに、心はもう完全に別の場所へ行ってしまっている。
仁はそれを、痛いほど感じながらも、何も言えなかった。
俺は仁の温もりに包まれながらも、胸の奥で繰り返し思っていた。
(先生の全部……俺だけのものにしたい)
嫉妬が燃え上がり、感情が魔力を暴走させたこの日。
身体依存から、明確な「感情依存」へと、俺はまた一歩、深く堕ちていった。
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