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◾️第8章 半年後、俺たちは他人になる
半年が経っていた。
試験が近づき、魔法学園の空気は一気に張りつめていた。
俺の個人指導も、徐々に受験、そして「卒業」を意識したものへと変わり始めていた。
「今日は最後のうなじ制御だ。丁寧にやるぞ」
透の声はいつもより低く、抑揚が少ない。
個室の中で、俺は椅子に座らされ、うなじを晒していた。
透の指が触れる。
いつもより動きが遅く、深く、まるで惜しむように魔力を流し込んでくる。
「……んっ……先生」
「声を出さずに耐えろ。試験本番では誰も助けてくれない」
指がゆっくりと円を描き、俺の敏感な内側をねっとりと刺激する。
とろとろに蕩ける感覚が広がるのに、透の表情はひどく冷静だった。
「先生……もっと、強く……」
「我慢しろ。もうすぐお前は俺の手を離れる」
その一言で、胸の奥が冷たく締め付けられた。
(触れられなくなる……?)
想像しただけで、魔力が激しく乱れた。
透の指が離れた瞬間、急に体が寂しくて、息が苦しくなる。
「先生……まだ、指導は続くんですよね?」
「……試験が終われば、俺とお前は他人だ。講師と生徒の関係も終わる」
透の言葉は淡々としていたが、それが逆に俺を追い詰めた。
「他人……?」
声が震えた。
触れられなくなる未来が、急に現実味を帯びて襲ってくる。
****
その夜、俺は再び仁の部屋を訪れた。
「……そりゃ、卒業ってそういうものだぞ」
「しかし、こんなにずっと触れ合っていて……」
俺は、どうしようも出来ないこの気持ちを消化できずにいた。
「なら、晴も魔法省を目指したらどうだ?確か、先生って魔法省から派遣された講師なんだろ」
「え、そうか……」
組織が一緒なら「他人」ではない。まだマシ。
「……仁、ありがとう。考えてみるよ。また」
「ああ」
俺は、満たされない疼きを抱えたまま退室した。
仁は、俺の背中を寂しげに見つめる。
(晴……もう、俺じゃお前の役には立ててやれないんだな……)
仁の心の声は、俺には届かない。
****
試験が近づくにつれ、透との指導はさらに丁寧になった。
一つ一つの動きが深く、俺の記憶に刻み込まれる。
「先生……触れられなくなるのが、怖いです」
ある日の指導中、俺は正直に口にした。
透の指が一瞬止まった。
「怖がるな。魔導士になるんだろう?」
「……でも」
透は答えず、ただ魔力を流し込むだけだった。
その沈黙が、俺の不安をさらに煽る。
****
夜になると、欲求が暴走した。
自分で慰める。
今では、透の顔を思い浮かべるだけで、自分の指は透の指へと変貌する。
そして、魔力注入され限界突破する自分を想像し、前とも後ろともなく乱暴になぶっていく。
「……はぁ、はぁ、先生……もっと、もっと、俺に触れて、下さい……」
それが例え条件反射で寸止めになるとしても、俺には必要な事だった。
透も、限界が近づいていた。
「もうすぐ……あいつを手放さなければいけない」
透は独り、指導室で窓の外を見つめながら小さく呟いた。
晴の乱れた喘ぎ、嫉妬に歪んだ表情、触れられるたびに跳ねる魔力――すべてが脳裏から離れない。
****
最後の個人指導の日。
俺は透の前に座り、はっきりと言った。
「先生……全部、見てほしい。俺の全部を」
透の瞳がわずかに揺れた。
「まだ早い」
短い拒絶。
それでも、俺の欲求は止まらなかった。
****
講習が終わり、俺は一人で桜の下に立っていた。
赤く染まった葉が散り始める。
(関係が、終わる恐怖)
触れられなくなるかもしれないという現実が、俺の心を蝕んでいた。
満たされても満たされない、この感覚。
俺は桜の幹に額を押しつけ、静かに呟いた。
「……なくしたくない」
その言葉を口にした瞬間、うなじから甘く切ない魔力が、静かに漏れ出した。
依存は、もう完全に完成していた。
身体だけじゃない。
先生との関係そのものに、俺は深く溺れていた。
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