11 / 12
◾️第11章 合格と不合格
結果発表の日が来た。
大きな掲示板の前に生徒たちが群がっていた。
俺は少し離れた柱の陰から、息を殺してその光景を見つめていた。
有沢仁の名前は、すぐに国立魔法省合格者の欄に輝いていた。
【国立魔法省 合格】
有沢 仁
「……おめでとう、仁」
小さく呟いた声は、自分でも驚くほど乾いていた。
仁は周囲から祝福され、いつもの健気な笑顔で頭を下げている。
その姿を見ていると、胸の奥が静かに軋んだ。
そして――
俺の名前は、魔法ギルド合格者の欄に、控えめに記されていた。
【魔法ギルド 合格】
七瀬 晴
国立魔法省……不合格。
胸の奥が、ゆっくりと冷えていく感覚があった。
大きなショックはなかった。
むしろ「やっぱり」という諦めが、先に胸を埋め尽くした。
(……透のことが、頭から離れなかったからかな)
試験中も、魔力制御は最後まで乱れていた。
透の指の感触、声、「我慢しろ」という言葉、あの夜に自分で後ろを擦りながら名前を呼び続けた壊れた行為——
すべてが、俺の魔力を蝕み続けていた。
仁が俺に気づき、駆け寄ってきた。
「晴! 魔法ギルド合格、おめでとう!」
「……ありがと。お前も国立合格、おめでとう」
俺の声は明らかに力がない。
仁は一瞬言葉を詰まらせた後、静かに言った。
「……魔法省は、ダメだったんだな」
「ああ。不合格だ」
仁の笑顔が、わずかに歪んだ。
でも彼は無理に明るく振る舞おうとした。
「魔法ギルドも最高峰だ。お前なら……きっと大丈夫だよ」
「……うん」
俺は曖昧に頷いただけで、それ以上言葉を続けられなかった。
合格した瞬間、俺が一番に感じたのは喜びでも悔しさでもなく、
(これで……先生との関係が、本当に終わってしまう)
という、静かな絶望だった。
****
その夜、俺は一人で桜の下に立っていた。
新たな蕾がいくつか見える。
胸の奥が重い。
泣きたいのに涙は出ず、叫びたいのに声は出ない。
ただ、じわじわと心が削られていくような、静かな崩壊だった。
(先生……もう、触れられなくなる)
透の低い声、うなじを這う指先、清潔なのに甘い匂い、寸止めされるたびの苦しさと悦び——
すべてが頭の中で繰り返され、うなじが疼く。
「……まだ、先生でいてほしかった」
風に溶けるように呟いた言葉は、すぐに消えた。
少し離れた場所から、仁が俺を見ていた。
彼は結局、何も声をかけられず、ただ静かにその場を去った。
(晴……もう、俺にはお前を止められないんだな)
仁の背中は、いつもより小さく見えた。
****
俺は桜の幹に背中を預け、ゆっくりとその場に座り込んだ。
合格したのに、何も嬉しいと思えない。
不合格だったのに、悔しさすら薄い。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
「……それでも、先生が欲しい」
静かな夜の中で、俺は小さく、けれど確かに言葉にした。
壊れたまま。
正常には戻らないまま。
それでも、透への執着だけは、消えずに、むしろ強く残っていた。
魔法ギルドへの合格は、俺にとって新しい始まりなどではなかった。
ただ、透との関係が終わることを、静かに告げる終わりだった。
ともだちにシェアしよう!

