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◾️第11章 合格と不合格

結果発表の日が来た。 大きな掲示板の前に生徒たちが群がっていた。 俺は少し離れた柱の陰から、息を殺してその光景を見つめていた。 有沢仁の名前は、すぐに国立魔法省合格者の欄に輝いていた。 【国立魔法省 合格】 有沢 仁 「……おめでとう、仁」 小さく呟いた声は、自分でも驚くほど乾いていた。 仁は周囲から祝福され、いつもの健気な笑顔で頭を下げている。 その姿を見ていると、胸の奥が静かに軋んだ。 そして―― 俺の名前は、魔法ギルド合格者の欄に、控えめに記されていた。 【魔法ギルド 合格】 七瀬 晴 国立魔法省……不合格。 胸の奥が、ゆっくりと冷えていく感覚があった。 大きなショックはなかった。 むしろ「やっぱり」という諦めが、先に胸を埋め尽くした。 (……透のことが、頭から離れなかったからかな) 試験中も、魔力制御は最後まで乱れていた。 透の指の感触、声、「我慢しろ」という言葉、あの夜に自分で後ろを擦りながら名前を呼び続けた壊れた行為—— すべてが、俺の魔力を蝕み続けていた。 仁が俺に気づき、駆け寄ってきた。 「晴! 魔法ギルド合格、おめでとう!」 「……ありがと。お前も国立合格、おめでとう」 俺の声は明らかに力がない。 仁は一瞬言葉を詰まらせた後、静かに言った。 「……魔法省は、ダメだったんだな」 「ああ。不合格だ」 仁の笑顔が、わずかに歪んだ。 でも彼は無理に明るく振る舞おうとした。 「魔法ギルドも最高峰だ。お前なら……きっと大丈夫だよ」 「……うん」 俺は曖昧に頷いただけで、それ以上言葉を続けられなかった。 合格した瞬間、俺が一番に感じたのは喜びでも悔しさでもなく、 (これで……先生との関係が、本当に終わってしまう) という、静かな絶望だった。 **** その夜、俺は一人で桜の下に立っていた。 新たな蕾がいくつか見える。 胸の奥が重い。 泣きたいのに涙は出ず、叫びたいのに声は出ない。 ただ、じわじわと心が削られていくような、静かな崩壊だった。 (先生……もう、触れられなくなる) 透の低い声、うなじを這う指先、清潔なのに甘い匂い、寸止めされるたびの苦しさと悦び—— すべてが頭の中で繰り返され、うなじが疼く。 「……まだ、先生でいてほしかった」 風に溶けるように呟いた言葉は、すぐに消えた。 少し離れた場所から、仁が俺を見ていた。 彼は結局、何も声をかけられず、ただ静かにその場を去った。 (晴……もう、俺にはお前を止められないんだな) 仁の背中は、いつもより小さく見えた。 **** 俺は桜の幹に背中を預け、ゆっくりとその場に座り込んだ。 合格したのに、何も嬉しいと思えない。 不合格だったのに、悔しさすら薄い。 ただ一つだけ、はっきりしていることがある。 「……それでも、先生が欲しい」 静かな夜の中で、俺は小さく、けれど確かに言葉にした。 壊れたまま。 正常には戻らないまま。 それでも、透への執着だけは、消えずに、むしろ強く残っていた。 魔法ギルドへの合格は、俺にとって新しい始まりなどではなかった。 ただ、透との関係が終わることを、静かに告げる終わりだった。

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