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第2話
02.傲慢アルファと、追憶の夜
02.傲慢アルファと、追憶の夜
とくん……と鼓動が跳ね、オレの意識が浮上する。体が熱くて、苦しくてたまらない。でも、誰にもそばにいて欲しくなかった。苦しくても辛くても、独りで過ごした方が心まで痛くはならない。
吐く息が熱くて、喉が乾いた。オレは必死に目を開けて、なにか飲むものがないか視線で探す。サイドテーブルの上に、ペットボトルが置いてあるのを見つけてほっと肩を撫で下ろす。他人の飲み物に手をつける罪悪感をちょっとだけ抑えて手に取った。でも力が入らず倒してしまう。
「あ、……っ」
「目が覚めたのか? なにか飲むか?」
人の気配にハッと身を強ばらせる。部屋は薄暗く、熱がこもった体で朦朧としている今、顔までちゃんと判別出来なかった。
「だ、誰だっ!」
「……怖がらなくて良い。俺はお前を傷つけない」
嘘だ。
そんなこと言ったって、信じられる訳がない。いつだってアルファ達は笑いながら近づいてきて、オレを痛めつけた。ぱっと起き上がって、距離を取る。でもベッドの上ではそんなに離れることが出来なかった。ベッドの端っこに座り込んでいると、パチリと間接照明の淡い明かりか部屋を照らした。いきなり明るくなった所為で、ぎゅっと目を閉じてもう一度開く。
そこにいたのは、カフェで声を掛けてきた長身の見目麗しいアルファだった。
「あ……あんたは」
「飲むか?」
見知らぬアルファはサイドテーブルの上に転がっていたペットボトルを持ち上げ、蓋を外すと差し出してくる。
飲みたい。
でも手を伸ばすのが怖かった。何をされるのかわからず、ただじっとペットボトルを見つめる。
その様子を見ていたアルファは自分の存在が相手を怯えさせていると気づいたのか、蓋を開けたペットボトルをサイドテーブルに置いて後ずさる。
今までそんな行動をするアルファはいなかった。いつだってアルファ達はオレから大切なものを奪っていく。心も体も傷つけられ、ボロボロになっても相手はそれを見て嗤っているだけだった。
伸ばされた手は恐ろしい。その手はオレから全てを奪っていく。体も尊厳もなにもかも引きずって、めちゃくちゃにしていく。
やめてと言えば髪を鷲掴まれ、嫌だと言えば顔や体を殴られ、蹴られる。
沢山の手がオレをがんじがらめにして、何もかも奪っていく。その恐怖にオレは凍りつくだけだ。衣服を剥ぎ取られ、陵辱され心を殺されるのを、口を噤んで見ているしかない。
それなのに、このアルファは違うのだろうか。
喉が乾いた。ゆっくりと後ずさっているアルファを見ながら、オレはもう一度ペットボトルに手を伸ばす。でも視界が狭まって何だか体が揺れていた所為で、ペットボトルを掴めず倒しそうになる。
「あ……っ」
蓋の開いたペットボトルが倒れたら、周囲が水浸しになる、と手を伸ばした。その時さっと腕が伸びてきて、オレより先にペットボトルを掴んでくれた。ホッとしたのも束の間、触れた肌が焼けるように熱くなる。
「っ……!」
「くそっ」
乱暴な言葉と共に、もう片方の腕が伸びてきて、倒れかかったオレの体も支えてくれる。ドクン……っと鼓動が跳ねた。でもその前に聞こえた声に心が悲鳴をあげる。怖い。
でも。
ほしい!
欲しい!
ホシイ!
自分に触れるこのアルファが欲しくて堪らない。少し治まっていたはずの激情がまた戻ってきた。
息が荒く苦しい。腹の底から熱いものが湧き上がってきて、それを治めて欲しかった。
「は、あ……っ」
でも、目の前の男はアルファだ。奪う者だ。その存在が恐ろしくて涙が浮かぶ。
「……俺はお前を、傷つけない。この行為がお前にとって辛いものなら、意識を落とす」
「え……?」
「俺はお前を傷つけたくない。この行為を嫌ってるのは、……わかる」
「……なんで」
アルファがオメガに優しくする必要なんてない。オメガなんて性欲処理する相手か、優秀なアルファを産むだけの道具だ。
脆弱でアルファを誘惑するフェロモンを垂れ流すだけの淫猥な存在、それがオメガだ。
「…………るから」
「え?」
よく聞こえなかった。
「お前の体は今、ボロボロの状態だ。これ以上の薬物の服用はやめた方がいい。だから、ヒートを円滑に治める為にはアルファとの性行為が一番確実で安全だ。だが、無理にすることはない。俺の精液をお前のナカに、その、人的に注入することでも、同等の効果があるはずだと言われた」
この美貌のアルファの言うことが、よくわからなかった。まるでアルファに気遣われているように感じる。
「……オレ、ヒートになってる」
甘ったれた声になったことに気づいても、出てしまった言葉は戻らない。思考も少しもたついて、言いたいことだけを言っていた。
月に一度ヒートを起こすと、いつだって聖母園が選んだアルファを充てがわれる。でも、ヒートの熱に浮かされても、アルファたちの冷たく蔑む眼差しが見えない訳じゃない。下卑た笑いを浮かべながら尊厳を踏みにじる言葉で嬲る者や、殴ったり蹴ったりと暴力を振るう者、ナイフで刺されたこともあった。
その時と首を絞められて真っ青な痣がついた時だけは、聖母園からそのアルファに苦情が入れられ、以後充てがわれたことはない。体に残る傷は、オメガにとって致命的な欠点になるからだ。美しくか弱く、アルファの庇護欲をそそり、ヒートの時には淫らにアルファを誘う、それがオメガだと言われた。
それでもオレにとってヒートは、快楽ではなく恐怖を感じさせる。
「ああ、薬で無理やり発情させられている。濃くて不快な匂いがプンプンする」
不快な匂い、と言われ、胸が抉られるような痛みを感じる。
「……ぁ」
初めて会ったアルファに不快と言われたくらいで、傷つくなんて滑稽だ。今までどれだけのアルファに同じようなことを言われたか。
「だ、たら……部屋を、出ていけ……! オレは一人で平気、だ……っ」
不快な匂いをさせるオメガなんて、抱きたくもないだろう。こっちだって願い下げだ。
どんなに体と心が欲しいと願っていても、思考だけは放棄しない。嫌だと言ってやる。
「く、……っん」
怒りで一瞬だけ、思考がクリアになる。でも声を出した所為で体が揺れ、ヒート中の体を苛む。
「わかった。だが、意識があれば辛い。……触れていいか?」
焦ったような言葉に、目の奥がチクチクする。涙なんて流したくないのに、水の膜が目を覆う。
そのアルファがヒートを一緒に過ごすことではなく、オレを眠らせようとしていることに気づいて絶望に胸が塗り潰された。
「どうして……オレと一緒にいてくれないの?」
この時のオレはどうかしていた。本当にどうかしていたのだ。まるで、ヒートを一緒に過ごして欲しいみたいな言い方をしてしまった。
見知らぬアルファの雰囲気が一瞬でガラリと変化する。
「それがお前の望みか?」
「……うん」
ゆっくりと返事をすれば、アルファはポケットから小さな円柱の物を取り出し、自分の腕に服の上から先端を押しつける。
あれはアルファ用の緊急抑制剤だ。一度興奮しすぎたアルファが僕の首を絞めた時に、使用したのを見たことがある。
「な、ん……で?」
「自分を見失うなんて許されない」
オメガなんかに惑わされて、我を忘れるなんて嫌なのだろうと気がつく。
「……そう」
また胸が痛くなったが、小さく返事をしてじっと見つめる。アルファの青年は、ぐっと唇を噛み締め、それから急いで小さな錠剤を口に放り込んだ。
「……なに?」
「お前、俺の理性を砕くのはやめろ」
「え?」
そんなことはしてない。ぐらぐらしそうな思考を手放さないように必死なのに。
「抱くぞ」
甘く囁くような声が聞こえ歓喜するように、腹の中がゾクゾクした。見上げれば、視線が重なり合う。自然に唇が開いて見つめあったまま唇が触れ合う。表面を擦るだけの動きで、腹の奥がぐるりと動いた気がして、瞼を閉じた。興奮に息が苦しくなる。
頬にあてられた指先が、唇の横をなぞり開けと促す。歯を割ってぬるりと舌先が入ってきた。舌の表面をぬるりぬるりと擦り、唾液が口の中に溜まっていく。
甘くてねっとりしたそれを飲み下し、はあ、とため息をつく。もっとそれが欲しくて目を開ければ、ぎらぎらした眼差しとぶつかる。
「……もっと」
初めてアルファに対して、甘えた声が出た。いつもなら声を出さないように、両手で口を覆っているのに、今は自分からこのアルファにキスしたいと考えていた。
「ああ、クソ」
そんなに自分にキスするのが嫌なのかと、悲しい気持ちになる。震える腕に力を入れて、アルファのそばから離れようとしたが、腰に回された腕は離れなかった。
「どこに行くつもりだ。離れるな」
「だって……」
アンタがオレのそばは嫌なんじゃないの? とは口に出せなかった。何故ならまたキスされたからだ。腰の辺りにあった紐を解かれ、肌が露になる。
「……んっ」
今更ながら自分が着ているものが制服ではないことに気づく。でもキスが気持ちよくてそんなことどうでも良くなった。
患者衣のような物を脱がされ、肌に直接触れられただけで、頭が爆発しそうになる。
「は、あっ……」
下肢が濡れてぬちゃ……とした水音が耳に響く。オメガの体の性とはいえ、恥ずかしさに一瞬思考が戻ってくる。
でもその時に肌に布が触れて、アルファはまだシャツの一枚も脱いでいない事に気づいた。
「……服」
文章にすることが出来ず、ただ服を握り締めてそう囁くしか出来ない。でもそのアルファはそれだけで、服を脱いでくれたので意味がわかったのだろう。
スーツのネクタイを引きちぎる勢いで外し、ジャケットを脱ぎ、シャツを剥いだ。男らしい精悍な体つきが目の前に現れる。
靴を脱ぎ捨て、スボンを下ろし、小さなベッドに上がってきた。それからオレの患者衣を剥ぎ取って、その大きな体に組み敷く。
「……怖くないか?」
びくんと体が震えてしまったことに気づいたのか、アルファの青年はそう問いかける。
「うん……」
どうしてこう甘えた声になるのかわからないが、普段の自分みたいに話せなかった。虚勢を張って、世の中を斜めに見ている、意地っ張りで強気の自分だ。
今の自分は甘えて守ってもらいたいと思う、弱々しいオメガそのものだった。
ヒートになる度に、忌々しげに見つめられるのを知っている。忌避すべき存在だと思われていることも知っている。だからこそ、オレはヒート以外の時は、いや、ヒートの時でさえ、人に頼るのは嫌だった。アルファになんて媚びたくない。一人にして欲しかった。
「辛く、ないか?」
言葉全てが優しかった。眼差しも声音も吐息すら優しさで包み込んでくる。だからオレもその優しさに包まれて、弱くなってしまった。
「……うん」
ネックガードひとつになった体を、そのアルファに擦りつけた。熱い体の湿った感触が肌に心地よい。
「辛く、ない。気持ち、良い」
心をそのまま言葉にした。そうしたら、またきっとキスしてくれる。そう考えたことは現実になった。唇を重ねて、優しい指先が肌を撫でる。頬を撫で、首筋を撫で、肩を撫でて行く。
ちゅく……っと唇が離れて、口端にもう一度キスられて、指先が触れた部分を唇が追いかけていく。首筋に唇が触れた途端、びくんびくんと体が跳ねた。我慢なんて出来なかった。
「んんっ」
脇腹を辿っていた指先が、今度は胸元を探ってくる。熱い手のひらが肌を擦る感触が心地よい。こんなに優しく触れられたことはなかった。泣きたくなるほど嬉しくて、心が震えてしまう。
きゅっと乳首を優しく弄られ、また体が跳ねた。
「ん、んっ!」
触れられるだけで体が高ぶるのに、その指先はもっと快感を与えてくる。
名も知らぬ、アルファに。
虚ろな視線がいきなりクリアーになる。視線を巡らせれば、胸に咲く蕾に唇を押しつけたアルファが見えた。
「あ、ああっ」
そんなところが感じるなんて知らない。今までの見知らぬアルファは、ちぎるように捻ったりはしたけれど、こんな風に唇で愛撫してくれたことはない。
舌で覆うように舐め、唇で吸い、ちゅぽっと音をさせて離す。徐々に乳首は固くなり、膨らんで咥えやすくなった。片方をやり終わると、今度はもう片方に唇を寄せ同じように感じさせてくれる。
「んくっ……あ、ん……っあ、あ、な、まえっ」
名前を知りたかった。自分を組み敷くアルファの名前なんて一度も知りたいと思わなかったのに、このアルファだけは特別だった。
「なま、え、……なに」
快感の間に言葉を発するのは難しい。それでも必死に問いかける。
「……名前? 今、この状況でか」
「う、ん……」
快感に喘ぐ体に力を入れて頷けば、ふわっと微笑まれた。美神のごとき美貌が、緩やかに解けて暖かさを増した。
「怜だ。かしこい、と言う意味だ」
「れー?」
舌っ足らずで甘えた声だが、今出せる声だった。そうだ、と頷かれ、名前を呼んだご褒美のようにちゅっと唇にキスされた。
嬉しくてもう一度口に出す。
「れー、れ、い……?」
「ああ、お前の名前は?」
「なまえ……」
あまり自分の名前は好きではない。でも見知らぬアルファ……、怜が聞くから答える。
「たかね。……高嶺」
「高嶺。綺麗な名前だ」
そうだろうか。高飛車で気取っている名前だと思っていた。オメガの生みの親が付けたという。友人の朝日みたいに希望に満ちた名前が良かった。
でも、怜が宝物みたいにオレの名前を呼ぶから、この名前で良かったと心から感じた。
「よ、んで……」
思考がふわふわして、心のままに口に出す。でもきっと、叶えて貰えるとわかっていた。
「高嶺」
「う、ん」
「たかね」
「うん」
正気の時ならこんな風に名前を呼ばれても、返事なんてしないだろう。でも今は幸福感に包まれて、唇が緩んでしまう。
そのまま深くキスされて、舌を絡め、唾液を混ぜ合わせる。甘くて癖になりそうなくらい、それは美味しかった。コクン……と飲み込み、腹に収めるともっと欲しくなる。
「あ……っ」
自身の中心を握られ、声が出た。緩く上下に扱かれるだけで、背中が反るほど快感が巡る。
オメガの性なのか、そこは細くて小ぶりだから、怜の大きな手のひらで包まれてしまう。
「気持ち良いか?」
「うん……もっと」
先端には先走りが滲み、くちくちした音が聞こえてきた。でも本当はそこよりも触れて欲しい場所がある。思わず、すりっと膝を擦り合わせる。
「他に触れて欲しいところでもあるのか?」
「ん……、奥」
舌っ足らずで甘えた声だ。他人にこんな声を聞かれるなんて嫌なのに、止められなかった。それに自分の腹の中にある奥なんて触れて欲しくない。でもこの時のオレは、怜に触れて欲しかった。手のひらを腹にあてて、そう呟く。
「煽るな……っ」
煽ってなんていない。本当のことを言っただけなのに、それはいけないことなのだろうか。
多分怯えた感情がそのまま表情に出たのだろう、怜は慌てたように言い添える。
「ち、違う、嫌なんじゃない。乱暴にしそうになるんだっ」
「らんぼう?」
こんなに優しく触れてくれてるのに? と首を傾げた。
「……わいい」
「なに?」
掠れた声で囁かれたのでよく聞こえなかった。聞き返したら反対に怜の体が伸び上がってきてキスされる。
「んっ……ん」
陰茎を弄っていた手が開いて、そのまま裏筋を撫でて袋を通り、その奥にたどり着く。濡れた手のひらが、アナルの縁を撫でていく。
「あ、あっ」
「……怯えなくて良い。いや、怖いのは当たり前か」
その声音が優しくて涙が出そうになった。怖かったわけではなく、ただ期待に声が出ただけなのに、まるで大切にされてるような気分だ。
「何度でも言うが、俺はお前を傷つけない……傷つけたくない」
そっと頬を撫でられて、やさしい眼差しを向けられる。このアルファは違う、と感じた。
今まで出会ったアルファとは、全然違う存在だ。
「……うん」
「俺を信じなくても良い。ただこれだけは覚えておいてくれ」
「うん……」
信じるよ、と言いたかったのに、それは言葉に出来なかった。こんなアルファがいることに驚いてしまう。
アルファとは冷たくて無慈悲で、暴力的な上位存在であり、オメガなんて人間とは思っていない。それがアルファだと思っていた。
「……痛く、ないか?」
つぷっと音をさせて指がアナルに入ってきた。オメガはヒートの時、女性器のようにアナルが濡れる。ぬるついた中を指の腹で擦られ、びくんと体がはねた。
「痛かったか?」
「ううん……違う」
気持ち良かったのだ。他のアルファは解したりしない。服を剥ぎ取られて突っ込まれ、それから何度も腰を振られて欲を吐き出したら終わりだ。なのに、怜は丁寧に解して、オメガの俺を気遣っている。
「……すぐ、いれないの?」
そうして欲しいわけじゃない。でも、疑問に思って聞いてしまった。
「我慢出来ないか? だが、まだ中が硬い。傷つく可能性があるなら、無理をさせたくない。……もっと気持ちよくしてやるから」
広げられた足の間に陣取った怜は、太ももの内側にキスした。中心に向かっていくそのキスに、太ももが震える。
「や、……ああっ」
それから怜の唇が信じられない場所にキスした。オレのモノに、キスしたのだ。
まるで甘くて美味しいキャンディーをしゃぶるように、舐めていた。舌を伸ばし、先端の窪みを舐め、唇を寄せて吸い付く。射精感が沸き上がり、我慢なんて出来なかった。
びゅくっと射精してしまい、足が閉じそうになる。けれど、足の間に怜がいて、その肩にぶつかった。
「あ、……」
怜の口に出してしまった。濡れた唇をペロリと舐め、怜の喉が上下に動くのを見て、現実を実感する。
「……美味い」
「そんなわけ、ない」
眉をひそめてそう言ったのに、怜は愛おしそうにオレのモノの先端を綺麗にするように舌先で舐める。
「もう一回、飲んだら信じるか?」
オレはちゃんと首を横に振った。それなのに、怜はもう一度オレの大事な部分を口に含み、同じように飲み干した。その間、アナルも解されて三本の指が中をスムーズ行き来している。
引き抜かれた瞬間、切なさにそこか収縮してしまう。愛液にまみれた指を舐めた怜の唇から目が離せない。ちゅるっと音をさせて舐めると、オレが見ていたことに気づいたのか、目を細めて微笑む。その綺麗な顔を見て、心臓が飛び出しそうになる。
「……もう、いいか?」
何を問われているのかわからないまま、オレは必死で頷いていた。
オレのアナルに、熱いものがくっついたと思うとすぐに中に押し込まれる。いつもこの瞬間は辛くて仕方ないのに、今日は違った。ぶわっと腹の奥から歓喜が湧き上がる。
「……すき」
初めてだったからきっと体と心が誤解したんだ。そんな言葉なんて全く考えてなかったんだから。
「ああ……!」
ぐぐっと腰を押しつけられ、中を抉られる。それだけで目の前がチカチカするほど快感を感じた。中は溢れるほど濡れていて、長大なモノが滑らかに動いている。
その度に傘の先で内壁を擦られ、先端のまあるいところで奥を突かれた、
「あ、あ、あ、……っ!」
いつもなら声なんて出さない。唇を固く噛み締め、手で覆いながらこの時間が過ぎるのを待つ。意識は朦朧としていても、誰にも心を許したくなかった。でも、今はうすく開いた唇からひっきりなしに嬌声があがる。それどころか感じすぎて怖いくらいだ。幸せな気持ちが胸いっぱいに広がって、ドキドキが止まらない。思わず腕を上げてその首に回したくなった。
でも、嫌がられたら?
思考の隅でそう考えたら怖くなって上がった腕が止まる。
アルファがオメガのやりたいことを許すわけがない。気に入らないと殴られるか、首を絞められるかもしれない。想像だけで恐ろしさに体が震えた。
「どう、した? 腕を回したければ、ここに回せ」
怜はそんなオレに気づいたのか、体を曲げて頭の横に腕をつき首を示した。そこに腕を回して良いと言われ、ポカンと見つめてしまった。
「しないのか?」
怜の声が少し寂しげに聞こえたのはきっと気の所為だ。でも腕を首に回していいなら、嬉しい。そっと腕を首に回して、きゅっと両手を結んだ。
「……動くぞ」
照れたような物言いもきっと気の所為。大事なものを大切に扱うような行為も気の所為。優しいアルファなんて気の所為に決まってる。
でも、この一時だけは夢みたいな気分に浸っていたい。余計な考えを全部脇におき、最初で最後だと思いオレはこの行為に耽溺した。
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