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16.ポフの尋問

あくる日。  昼近くにガシュウは目を覚めました。  朝は苦手なので、大体この時間に起きている。  伸びをしながら身を起こすと、ポフが正座をして、ガシュウと向き合っていた。  ポフは、いつも朝早くから図書館へ行き、自主学習をするのが習慣となっていた。  ガシュウが起きる時間まで家にいることは珍しいことだった。 「ガシュウ、話があるんだ」  改まった様子のポフが話しかけてくる。 「なあに?」  まだぼんやりとした頭でぽやぽやと返事をした。 「まじめな話」  真っ直ぐな瞳でポフがそう言うものだから、ささっと身を起こしポフの前に正座した。   ポフは赤い布切れを縫い合わせて作った小袋を取り出した。  その赤い小袋はガシュウの私物入れだ。  ポフは小袋から札束を取り出して、ガシュウの目の前に置いた。  ガシュウは固まった。 「勝手に中を見てごめん。最近のガシュウの様子はおかしいと思って。心配になっちゃって、勝手にみた。ごめん。ねえ、このお金はどうしたの?こんなに大金、急に手に入るものじゃないでしょ」  ポフは真剣な眼差しをガシュウに向けていた。「この金はどうしたのか?」その問いにどう答えるべきなのか、分からなかった。  フレアから数枚ずつ受け取っていた札は、いつしか束になっていた。  それだけの回数があった。  どこから話せばいいのだろう。  どこまで話せばいいのだろう。  ポフは姿勢を正した。  肩に力を入れて、ゆっくりと息を吸ってから張り詰めた声で言った。 「まさか、悪いことをしたお金、じゃないよね」  ポフの言葉に、まさか、と身が震えた。  そんなわけない。  でも。どうだろう。本当にそうなのだろうか。  わからない。  お金に良いも悪いもあるのだろうか。  ガシュウの得た金は悪いことで得た金なのだろうか。  フレアがくれた金だ。  フレアは国のえらい騎士なのだ。えらい騎士がくれた金が悪いものであるはずがない。  それでも本能が隠したいと思っている。  正体の見えない罪悪感。    金はきっと悪くない。  でも、ガシュウはきっと悪いことをしている。  ポフを悲しませてしまう。  まばたきを繰り返すばかりのガシュウの瞳を、ポフは探るように覗き込んでいた。 「近頃ずっと、帰りが夜遅いよね。何、してるの?」 「あ。あの、ごめん。ごめんね、ポフ。夜、ひとりにしてしまって、心細くて、寂しい夜を過ごさせてしまって、ごめんね」 「今、そういう話はしてない」  ピシャリと言われる。  その気丈な態度に、黙ることしかできなかった。  ポフは怒っているのだ。  ガシュウのことを怒っているのだ。  頭がうまく回らない。  言わなければ。  ポフに本当のことを。  本当のことを言おうにも、もうすでに、ポフにはたくさん嘘をついている。  ポフがガシュウを疑っている。  嘘をつくのは上手くない。  隠し通せる自信はない。  だからって本当のことは話せない。  どうしよう。どうしよう。どうしよう。  瞳は右へ左へ、落ち着かない。 「ねえ。なんで、黙ってるの。本当に…、本当に悪いことをしているの…?」  ポフの瞳に不安の色が滲む。潤んでいるようにもみえた。泣くのを堪えているのかもしれない。  ポフにそんな顔をさせてはいけない。何か、何か言わなければ。  ガシュウは焦った。  嘘はどうしたってバレる。  嘘は慣れていない。  ……観念をした。 「あの。…あのね。騎士さま、騎士さまと会っているの」 「『騎士さま』?」  ここで『騎士さま』の名前が出てくるのは予想外だったようで、ポフは目を丸くした。 「騎士さまって、あの騎士さまだよね。ガシュウを食事に連れて行ってくれた。もうずっと会えてない、って言っていた」 「うん。その騎士さま」  ガシュウは頷いて、それから辿々しく話を続けた。 「ガシュウはね、仕事、仕事を探していたの。ちゃんと、現実と向き合って、働こうと思ったの。そうしたらね、騎士さまに会ったの。偶然ね、街で、会ったの。本当に偶然だったの。ガシュウは驚いてね。それでね、あの、あのね。騎士さまが、お金くれたの。ガシュウが、騎士さまの言うとおりにしたから。報酬だと言ってね。お金をくれたの。だから、これは騎士さまがくれたお金なんだよ」  ポフとガシュウの間に置かれた札束を見ながら、ポフはあまり納得していない顔をしている。 「どういうこと?騎士さまに、何を言われて、何をしたの?」 「あの。あの、それは」  身体の関係はどうしても言えない。  言ってはいけないと頭の中で警報が鳴っている。 「騎士さまの、お手伝い、とか…してる。帰ってくるのを、待ってる、とか…。そういう契約だと、騎士さまは言っていたの」  これ以上、もう説明の仕方が分からなかった。  不安そうにポフの顔を見やれば、意外にも納得したような、少し警戒の解けた表情になっていた。 「身の回りの手伝いのお仕事をしてるってこと?従者みたいなお仕事をガシュウにくれたってこと?」 「…じゅうしゃ?」 「従者の意味を知らない?じゃあ、ガシュウがうまく説明出来ないのも仕方ないかな。従者ってね、主人の身の回りの世話をする人の事だよ。『騎士さまの言いつけ通りにしたら報酬がもらえる』ってそういうことだと思うんだ」 「従者…、従者。うん。そういうことかも。うん、ガシュウは従者かも」  うんうんと頷いて、フレアとの関係に名前がついたことに、少しだけ安心を覚えた。 ―――従者。  本当は違うのだろう。  でも今は、それで安心していたかった。

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