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17.ポフの勘違い
ガシュウは身を小さくした。ポフの問いは続いた。
「騎士さまとは、いつもどこで会ってるの?」
「あ。あの。えっと。ガシュウが占いの店を出してるところがあって」
「あの占い、まだやってたんだ」
「ううん、今はやってなくて。そこが待ち合わせの場所になってるの。騎士さまの任務が終わるの待っててね。騎士さまが来たら、それからは一緒に西の地区に行って…その」
西の地区の歓楽街に行く、なんて言えない。
どうしよう。
口を滑らせた。西の地区と言ってしまった。どう訂正しよう。
しどろもどろしていると、ポフが笑いかけた。
「ふふ。僕はガシュウの占いは好きだよ。西の地区って丘の方でしょ。上流階級の人たちの高級住宅地になってるよね。やっぱり宮廷騎士になる人は、あの辺りに住んでいるんだね」
「う、うん。そうなの。そうなの」
実際はフレアの家の場所なんて知らなかった。
でも騎士の任務が終わり、自宅に帰るのは自然な流れだろう。
ポフの勘違いに乗っかった。
本当は丘の下の歓楽街に行っているだなんて、口が裂けても言えない。
「じゃあ、騎士さまの自宅で、家事手伝いみたいなことをしているの?部屋の掃除とか?」
「え。うん…。うん。でも、ガシュウはうまく出来なくて、騎士さまは満足してない、と思う」
「大丈夫だよ。ガシュウは頑張り屋さんだから、騎士さまも分かってくれてるよ」
「そ。そうかな」
家事手伝いなんて全くの嘘だ。うまく出来てないのは本当の事だけど。
「ねえ、騎士さまの名前、なんていうの」
「なまえ…騎士さまの名前。名前は…フレア。フレアさま」
「ふうん。名前も明かしてくれてるんだね」
ポフは視線を下げて、なにやら深く考えている。
視線が上がると真っ直ぐに見つめられた。
「ガシュウはさ、フレアさんを、信頼してる?」
真面目なトーンの、その言葉は、難しい問いだった。
信頼とはなんだろう。どのような状態が「信頼している」と言えるのだろう。
少なくともガシュウにとって、フレアはえらい騎士で、少し怖くて、優しい。それは出会った頃から変わらない。
「してる、よ。フレアさまは、優しいから、ガシュウに、とても」
それ以上の言葉は出なかった。
ポフはガシュウの瞳を鋭くのぞき込んでいた。しばらくの時間を見つめ合った。ポフは何を見ようとしているのだろう。
そうして、納得したように視線が外れると、柔らかい表情になった。
「ふふ、そうだね。ガシュウが信頼してるなら、僕も信頼することにする。ちゃんとした騎士の人からもらった仕事なら、安心かな。従者、か。いい仕事がもらえてよかったね、ガシュウ」
「うん…」
ポフは笑顔で言うけれど、ガシュウは心の奥がずんと重く痛んだ。
ポフはふたりの間にある札束を見ながら言った。
「じゃあ、これはフレアさんから貰った正当な報酬でしょう。なんで隠すような真似をしたの」
「あの。だって。こんな大金。どうしていいか、分からなくて。どう説明すればいいか、分からなかったの。ガシュウは説明がうまくないでしょ?。それに、ガシュウは騎士さまといるから、暖かい部屋で快適に過ごしている。それがポフに申し訳ないと思ってて、言い出せなかった…」
本当のことだけど、言い出せなかったのは別の理由で。フレアとの身体の関係は絶対の秘密にしたい。
どんどん嘘をついて、自分がこんなにズルい人間になれるなんて知らなかった。
ポフは困ったような笑顔を向けた。
「もう、ガシュウってば。それがお仕事なんでしょう。僕のことばかり気にしないで。それより、お金の管理をどうするか、きちんと考えないとね。僕ね、ボランティアの生活支援スタッフさんと知り合いだから、相談してみるよ」
ポフはしっかりしている。
まだ12歳の子供に、大人の自分が頼ってはいけないと分かっているはずなのに、結局ポフに金の管理をやらせてしまう。
ポフは頭が良くて、この街で生きていくために支援してくれる大人たちと、きちんと繋がっている。
ガシュウには到底出来ないことだ。
「ガシュウ、話してくれてありがとう。でも、もう僕たちの間で隠し事はなしだよ。本当は、すごく心配していたんだ。大丈夫、仕事ももらえて、良い方向に向かってる。ふたりで相談していけば、絶対に大丈夫。だから、泣かないで」
ポフがふんわりと抱きついてきた。
自分の頬に手を当てると濡れていた。
いつから泣いてしまっていたのか。
隠し事をしない、その約束すら守れない。
何もできない。
ガシュウは、小さなポフの体を弱々しく抱き返した。
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