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22.美味しい料理

 ソファに並んで、どちらも口を開かず、静寂の時間が流れる。  そういえば、夕食がまだだったと、フレアは思い出だした。 「腹、減ったな」  自分よりも、ガシュウに尋ねるように呟いた。 「よければ、あたしが何か作りますよ」  意外な返事が返ってきた。  不器用そうな男だ。料理など、しないと思っていた。 「出来るのか?」 「ええ、まあまあです。たまに、ポフに作ってあげてますよ」  なら、問題はないだろう。しかし。 「食材の買い置きがあまりない」 「キッチン、見てもよろしくて?」 「ああ」  ガシュウはソファからぴょんっと立ち上がると、足の踏み場を探しながら、キッチンへ入っていった。 「うわあー!騎士さま!」  急に大声を上げるから、何事だと思い、フレアもキッチンへ向かった。そこでは、ガシュウが目を輝かせていた。 「冷蔵庫です!」 「ああ。この辺りは、動力の供給が安定しているからな」  上流家庭では、すでに一般的だが、普通の家庭では、まだ行き届いていない。値段が高価なせいもあるだろう。 「ひんやりしてますねえ」  扉を開けて、中の冷たさを楽しんでいる。 「あまり開けっ放しにするな」 「はい!」  ガシュウはすぐさま扉を閉めた。 「それにしても、中、あまり入っていませんね」 「そう言っただろ」 「でも、あたしの家より、ありますよ」 「任せて平気か?」 「もちろん。お任せを!」  胸を張って、そう言うのだから、フレアはキッチンを後にした。  ソファに座り、くつろぐと、キッチンから鳴り響く、騒がしい物音を聞いていた。それは心地のよい音で、フレアは、肩の力が抜けるのを感じた。  しばらくして、なにか、焦げた匂いがしてくる。何を作っているのだろう。嫌な予感がする。  それでも、ガシュウに任せたのだから、おとなしく待つことにした。 「できましたよ~」  にこにことして、ガシュウは皿を持ってやってきた。それはテーブルに置かれた。  皿の上に、丸焦げのパン1枚と焼いたアスパラガス2本が乗っている。 「どうぞ召し上がれ」  真っ直ぐな瞳で言うのだから、ふざけているわけではないだろう。  焦げたパンを口に運ぶと、焦げたパンの味がした。  焼いたアスパラガスを齧ると、焼いたアスパラガスの味がした。 「おいしいでしょう?」  ガシュウが味の感想を求め、覗き込んでくる。 「馬鹿」  その一言だけ、やっと言えた。ガシュウは不服そうな顔をしている。  それでも次のひとくちを運ぶ。見つめてくるガシュウの視線が気になる。そういえば。 「お前の分はどうした?」 「そんな、騎士さまの家のものを頂くなんて、滅相もございません」  顔の前で手を振っているガシュウに呆れ、はあ、とため息をついた。  焦げたパンと焼いたアスパラガスを平らげて「美味かった」と伝える。質の良い食材なのだ、素材の味が良い。ガシュウは「そうでしょう!」と喜んでいた。  フレアは立ち上がった。 「外に食いに行くか」 「足りませんでした?」 「まあな」  玄関へ向かうと、フレアと同じ踏み場を選んでガシュウも付いてきた。  家から少し歩いた場所にある、こぢんまりとしたレストランに入った。かしこまるほどの所ではないが、ガシュウは身を堅くして、キョロキョロと店内を見渡している。  店員を呼び、ステーキを頼んだ。ガシュウは文字が読めないのだから、どうせ遠慮するのだから、希望を聞かずに同じものを頼んだ。  運ばれてきたステーキが、フレアと、ガシュウの前に置かれる。ガシュウは目を見開いている。 「お肉!こんなに大きいお肉……!」  肉とフレアを交互に見ている。 「本当に、これ、食べてもよろしいんですかね?」 「ああ」 「あたし、お金持っていないですよ」 「連れてきたのは俺だ。払うのも俺だ」 「でも……」 「俺の言うことには従えと、話したばかりだろう」 「……そうでございました。いただきます」 「ああ」 「……あらまあ……あらまあ」  ガシュウは目をまたたいて、上から横からステーキを観察している。  フレアはそんなガシュウを放っておき、フォークとナイフを手に取った。肉にナイフを入れようとした時に、カチャっと皿が揺れる音がした。  ガシュウの方を見ると、フォークを垂直に肉に突き刺していた。ひとかたまりのそれを持ち上げると、大きく開いた口へ運ぶ。 「待て。一度置け」  ガシュウはぴたりと止まり、視線だけフレアに向ける。  ムッと眉を寄せると肉を皿に戻した。 「なんです。今さらナシとかナシですよ」  頬を膨らませている。  フレアはガシュウの皿を取ると自分の前に置いた。 「……本当に、ナシなんですか?」  今度は悲しそうな顔をしている。ころころと変わる表情は、見ていて飽きない。 「食いやすいように、切り分けるだけだ」  ナイフを入れ、一口サイズに切り分ける。 「わあ、器用ですね」  興味深げに、ナイフさばきをみている。器用な程ではなかったが、ガシュウがそう見えるなら、それでよかった。 「ほら」  切り分け終わり、皿をガシュウの前に戻す。 「お肉が増えました」 「増えていない」  切り分けた数のことを言っているのだろうか。  ガシュウは一口サイズのステーキにフォークを突き刺すと、大きく開いた口に運ぶ。もぐもぐとゆっくり口を動かしている。とろけるような表情で「おいしい」と声が漏れる。 「それは良かった」  自分の分のステーキはまだ手付かずだが、今はガシュウの表情を堪能している方が、満足できた。 「フレアさまも食べてくださいな。一緒に食べましょうよ」  ガシュウが次の一口を運びながら言う。 「そうだな」  フレアは、ふっと息を吐いて薄く笑った。  朝の熱は遠のいて、呼吸が深くなる。  フレアはガシュウにならって、自分の食事に取り掛かった。

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