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50.ふたりが泣いている

 ガシュウは泣いていた。  握り合った手は熱くて、フレアの体温が流れてくるようだった。  自分の体温もフレアに流れていればいい。  自分なんか、大切に扱われなくて当然。価値がない人間。そう思っていた。  でも、フレアがくれる言葉、行動が、そうじゃないと思わせてくれた。  家に入れてくれた。  一緒にビールを飲んで酔った。  ケーキを土産にうちまで来てくれた。  ポフが倒れたときは、頼りにした。  一緒にお風呂に入って、一緒の布団で眠って、一緒に朝を迎えて、一緒に――。  おしゃべりをした。  笑い合った。  呆れられたり、怒られたり。  今は、泣いている。  どれも、ひとりじゃできない。  出会った頃を思い出した。  貧乏人に気まぐれで親切にしているだけの騎士だと思っていた。そういう気まぐれは、すぐに消えるものだと思っていた。  それでも、会いに来てくれるのが嬉しかった。  話すのが楽しかった。  この気持ちはなんだろう。寝る前にいつも考えていた。  フレアのことを考えると、胸が高鳴って苦しかった。  ――きっと恋だった。  恋をしたことがなかった。  だから、確信が持てなかった。  立派な騎士さまにそんな気持ちを向けるなんて、身のほど知らずだと思った。  契約関係は、つらかった。  どんなに肌を重ねても、虚しさだけが積もった。  元気に振る舞う自分は、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、わからない。  もう、好きだったかどうかも、わからない。  わからないまま、そばにいた。  自分で決められることは何もない。  望んではいけない。  生まれた時から、そういうものだと知っている。  それでもフレアを失った時、そのままではいられなかった。  初めて望んだ。  初めて、自分の意思で、フレアを選んだ。  ――これが恋だ。  もう涙も止まっているのに、握り合う手はほどけない。  顔だけが近くて、お互い目も逸らしはしない。  可笑しくなって、笑ってしまう。  フレアも遅れて笑った。  声を出して、大袈裟に笑った。  それでも手を握ったままなのが、さらに可笑しかった。  ――泣いている。  子供が泣いている。  ……違う。  泣いているのは、自分だった。  大人がふたり、泣いて。  子供のように、泣いて。  だんだん、それが可笑しくて、  ふたりして笑ってしまう。  まるで初めて笑い方を知ったみたいに、  ぎこちなくて。  ひまわりのようには笑えなかった。  あんなふうに、大きく明るくは咲けなかった。  それでも、小さな芽が、たしかに顔を出していた。

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