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第六回
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【第11話】心を寄せたΩと思い直すα
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――第25章:律の帰省
中間テストを来週に控えた木曜。
部屋で机に向かっていた律が「あ」と声を上げた。
蒼司 「どうした?」
律 「言い忘れてました。僕、金曜夜から実家に帰ります」
蒼司 「何かあるのか?」
律 「従兄弟の結婚式が土曜にあるんです。戻るのが夜なので、寮に帰って来るのは日曜ですね」
律はさっとスマホのカレンダーを確認してから答える。
蒼司 「そうか。…結婚式って、何着ていくもんなんだ?」
律 「学生なら制服ですよ。よかった、着替え用クリーニングに出しておいて」
そう言って律はクローゼットに視線を向けた。蒼司はそんな律の顔を見る。
以前なら「そのくらいも知らないんですか」と言われていた気がするが、あの日以来やはり律の雰囲気は柔らかくなっていると思った。
律 「そうだ。蒼司さん」
蒼司 「ん?」
またしても何か思い出したような表情をして、律が蒼司の方を向いた。
律 「物理的に離れることになるので、体調に変化がないかちゃんとみてくださいね」
蒼司 「分かった」
蒼司は大きく頷く。前回は感情に流されてしまったので、同じことはしないぞ、と言わんばかりに。
すると律は、手にスマホを持ったまま視線だけでチラチラと蒼司を見た。
律 「あの…」
蒼司 「今度は何だ?」
蒼司はベッドから降りて、律の隣に少し間をあけて腰掛ける。
横に来られた律は少し慌てたような素振りをみせた。ほんの少し逡巡すると口を開く。
律 「そういえば、連絡先交換してないな、って」
蒼司 「ああ、確かに。部屋が同じだし、特に不便なかったからな」
律 「再来週には冬休みもありますし、交換しておきませんか?」
蒼司 「いいぞ。土曜の夜なら電話してもいいのか?」
律 「え!はい!じゃあ、落ち着いたら連絡します」
離れても連絡が取り合えるのがここまで嬉しいとは思ってもみなかった。意図せず声が上ずる。
慌てて、いつものトーンに落とした。
スマホをお互いに操作しながら、連絡先を登録した。
最初に距離を取ったときもこの方法で乗り越えられたのでは?と自問するが、過ぎてしまったことなので次に活かすことにする。
――第26章:α同士の世間話
そして金曜の夕方、放課後になると律は荷物をまとめて寮を出ていった。
手を振って蒼司が見送る。
なぜか横には二階堂もいる。
蒼司 「なんでお前がいるんだ?」
二階堂 「たまたま通りかかったら、2人が今生の別れみたいな雰囲気だったから気になって」
蒼司 「縁起でもない事を言うな」
二階堂 「今生の別れが通じたのがびっくりだわ」
蒼司 「律にいろいろ習ってるからな。国語もだいぶ勉強したぞ」
二階堂 「そっか」
2人はそのまま、まだ人がまばらな食堂で話すことにした。
夕日の差し込むなか、適当に空いているテーブルにつく。
二階堂 「で、三浦くんはどうしたの?」
水を入れたコップを差し出しながら二階堂が聞いてきた。
蒼司 「従兄弟の結婚式があるんだ。だから、この週末は一人だ」
コップを受け取った蒼司は一口飲む。
最近は寒くなってきているが、寮の中は暖かいので冷たい水が美味しい。二階堂はコップを弄びながら聞いた。
二階堂 「寂しいか?」
蒼司 「寂しい!」
即答する蒼司に少し目を細めた二階堂は、やや演技がかった様子で言った。
二階堂 「もう少し早く言ってくれたら予定あけてたのに」
蒼司 「どうせ番候補とデートでも行くんだろう」
二階堂 「3人もいると平等に対応するのも大変だよ?」
そうだった。とはいえ、二階堂なら3人もいる候補のオメガともうまくやっているんだろう。
蒼司 「二階堂は、番候補のフェロモン対策はどうしてるんだ?」
二階堂 「ん?抑制剤で足りてるぞ、俺は。…もしかして、そっちはダメなのか?」
蒼司の質問からすぐさま意図を汲み取る。
抑制剤が効きづらいΩがいるというのは、まともに授業を受けていればそれが何かはすぐ分かる。
二階堂の気づいた様子に、蒼司は一度頷いてから応えた。
蒼司 「ああ。俺たちは、運命の番らしい」
コップを持つ手に少し力が入る。
二階堂 「めちゃくちゃ珍しいやつじゃん。じゃあ、大変じゃないのか?抑制剤効かないってさ」
蒼司 「律がいろいろ頑張ってくれてる。俺は良いんだがな」
二階堂 「良くないでしょ。ラットになったらどうするんだよ」
その言葉に、蒼司は二階堂から視線を外してから、小さい声で過去のことを告げる。
蒼司 「…なりかけた」
二階堂 「は?いつ?」
蒼司 「2ヶ月くらい前に。でも、律の声が聞こえて正気に戻れた」
二階堂 「…それ、誰にもバレてないよね?一大事だぞ…」
二階堂は声を落としつつ、盛大にため息をついた。
蒼司もハッとして周りを伺う。
何人か人は居るが席も離れているし、誰かに聞かれていることはなさそうだ。
蒼司 「…だから、今はいろいろ気をつけているところだ」
二階堂 「気をつける、で何とかなってんの?」
蒼司 「今のところは」
二階堂 「気は抜かないでよ?友達がラットで退学とか恥ずかしすぎ」
蒼司 「もちろんだ」
心配とも呆れとも取れる顔をする二階堂を見て、改めて反省する。
効きが悪いといってもゼロではない。だから抑制剤を飲み忘れるようなことはしない。律に言われなくても換気もする。
他にできることはないだろうか…と思案し始めた蒼司に、二階堂が少し聞きづらそうに話題を振ってきた。
二階堂 「ところで三浦くんはさ、ヒート大丈夫なの?アレって番のフェロモンでも誘発されるじゃん」
蒼司 「それも今のところは。二階堂の番候補たちはどうなんだ?ヒートになったりするのか?」
二階堂 「抑制剤で抑えてもらうようには…してたり、してなかったり」
蒼司 「なんだそれは」
二階堂 「いや、誘われるときはまぁ、良いかと思って」
蒼司 「は?節操ないなお前」
二階堂 「いちおう全員に確認済みだよ。ヒート鎮めるためにするのと、その中から選ぶかどうかは別だよって。俺だってヒートのオメガを前にそこまで理性的じゃいられないの」
蒼司 「なんか都合よくオメガを利用してないかそれは」
二階堂 「どうとでも言ってくれ」
二階堂は肩をすくめてみせる。蒼司はそれ以上は踏み込みすぎかと、話を変えた。
蒼司 「二階堂は、その候補の中から誰か選ぶつもりはないのか?」
二階堂 「無いかな。皆別に悪い子じゃないんだけど、ピンとこない。蒼司は?」
蒼司 「フェロモンのせいもあるかもしれないが、律しか居ないと思っている」
二階堂 「いいじゃん。羨ましいかも、正直」
蒼司 「羨ましい?」
二階堂 「運命の番なんて、出会う確率どんだけだと思ってんの?しかも三浦くんいい子じゃん。大当たり、ラッキー、でしょ」
蒼司 「ああ、俺は運はいいからな」
二階堂 「大事にしないとだね。嫌われるようなことしてない?」
蒼司 「…多分。最近は、仲が良い、と思う」
二階堂 「聞いていいやつ?」
蒼司 「ダメ」
二階堂 「じゃあ、話したくなったら教えて」
そんな話をしていると、厨房のほうからいい匂いがしてくる。2人はそのまま食事をしてから別れた。
二階堂と番候補たちの関係を聞いて、自分と律の関係を見直してみる。
ヒートを鎮める方法の一つに、番との性的な接触があることは蒼司も知っている。
しかし、律とそういった関係を持つことは憚れた。
自分がラットになりかけた時に覚えた、我を失う感覚。
本能をそのままぶつけてしまう恐怖。
それを上手くコントロールできるまでは、簡単に律に触れるべきじゃない。たとえ、律から頼まれても。
蒼司は律の居ない部屋で、決意を新たにする。
大事にしないとね、という二階堂の言葉を思い出して、胸に刻んだ。
――第27章:離れたからこそ
土曜の昼。
蒼司はひとりで目を覚ます。寝すぎたと思ったが休みの日だし、律もいないしで咎められることはない。
一度スマホの時計を確認してから、二度寝をするかともう一度目を閉じた。
寝る前に部屋の換気をしたからだろう。律のフェロモンはもう残っていない。
「物理的に離れることになるので、体調に変化ないかちゃんとみてくださいね」
言われた通りに、ベッドで仰向けになって自分の身体がどうか確かめてみる。
深呼吸をしてから、頭、胸、腕、手先、脚と意識を巡らせた。
たった一晩離れただけで何かが変わるのかと思ったが、蒼司の中である感覚があった。
蒼司 (体が軽い…気がする)
律が徹底して避けていた時期も、最近お互いに気をつけている間も、同じ部屋で過ごしていたし、学校ですれ違う程度でも影響があったのだろう。
それがたった半日離れただけで、明らかな違いがあった。
ほんの少し、重力から解放されたような。
番のオメガが近くにいることで、アルファとしての本能が静かに刺激を受けていたのかもしれない。
普段も決して体調が悪かったわけでもない。
ほんの微細な違いだが、蒼司にとっては大きな衝撃だった。
蒼司 (なら、律も同じじゃないか?)
お互いにフェロモンの影響があるなら、律だってきっと、側にいないほうが体が楽になる。
それに、これならヒートを誘発することもない。…律の負担を減らせる。
蒼司は、フェロモンの影響を今さらながらに実感した。
そして、自分のわがままで律に負担を強いていたと後悔の念に駆られる。
蒼司 (寂しいだの辛いだの…甘いことを言っていたな、俺は)
保健室に運んだ時の律を思い出す。
歩くのも精一杯で、息も上がっていて、寝るのも辛そうだった。
うわ言を言っていたので、悪夢も見るのかもしれない。
Ωは定期的にヒートになると言うが、この前みたいに急になることもある。
予定外なら、心や身体だって余計にしんどいはずだ。
でも離れて過ごせば、運命の番でも抑制剤で抑えられる可能性も高い。
それなら、部屋を分けてもらえるよう掛け合って、連絡はスマホで取れば良い。
そして、律が番になると決めてくれるまで、待つ。
大事にすることと側にいることはきっと別なのだ。
夜に律から連絡がきたら、今度は自分から提案しよう。そう、蒼司は決めた。
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【第12話】想うがゆえにすれ違うαとΩ
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――第28章:反転
土曜の夜9時頃。律と母の志保は引き出物や着替えなどの荷物を持って、アパートに戻ってきた。
玄関を上がると、志保は荷物をそのまま廊下に置いてから、背伸びをする。
志保 「あー、疲れた!でも、良いお式だったわね」
律 「うん。ご飯も美味しかったし」
志保 「そうよ?あんたももし披露宴するなら、食事だけは手を抜いちゃダメよ」
律 「そ、そうだね」
急な未来を突きつけられて、律の脳裏に一瞬蒼司がよぎる。
まだ番になるとも決めていないのに。
とは言っても、律の中では有り得ないことではなかった。
そう思う自分に、自分で少し戸惑う。
距離を置いたあと…自分の気持ちを吐露したあと。
蒼司は、以前に増して自分を気にかけてくれるようになった。
「側に居させてくれ」
あの日の蒼司の言葉が思い出される。ヒートのときに握ってくれていた手の暖かさも。
自分の手を何の気なしに見る。荷物の持ち手の跡がついている手のひらをぎゅっと握り込んだ。
2人の日々の積み重ねが、ヒートのトラウマを乗り越えるための勇気になるような気がした。
志保が風呂を勧めてきたので、母より先に入る。
風呂を上がると、志保が引き出物を整理していた。お持たせの包みを一つ取り出すと、サンドイッチだった。
志保 「律、今食べる?お腹いっぱい?」
律 「一個だけ食べようかな」
志保 「ん。じゃあ、私もお風呂行ってこようかな」
志保はそう言うと、リビングを後にした。律は手のひらサイズのサンドイッチを頬張る。
一息ついたので、律は蒼司との約束を思い出し、メッセージを送る。
そして、なんとなく自室に戻った。
時計を見ると夜10時半。
寝てたら悪いなと思った矢先、蒼司からすぐに返事が来た。それを見て、通話をタップする。
律 「もしもし?あの、夜遅くにすみません」
蒼司 「待ってた!」
律 「そ、そうですか」
普段と違うシチュエーションに、ちょっとした間が生まれる。
律が何を話そうかとあたふたしていたら、蒼司から話題を振ってきた。
蒼司 「…結婚式は楽しかったか?」
律 「はい。すごく和やかで、ご飯も美味しかったし」
蒼司 「どんな料理が出たんだ?」
律 「えっと、何ていうんですかね。フランス料理かもしれません。以前、蒼司さんのお宅でご馳走になったやつに似てました」
蒼司 「…また、ウチに食いに来るか?」
律 「え?いや、敷居が高い、ですねそれは。母がご迷惑おかけしてしまったし」
蒼司 「あれは俺の母さんも悪いから。言っておいたぞ?律にきつく当たるなって」
律 「僕も、母には一応伝えました。本当にあのときはヒヤヒヤしましたね…」
思い出話や他愛ない話が続く。
顔が見えないせいもあってか、慣れれば律も気楽な気持ちで話せた。
そうやって30分ほど話した時、蒼司がふいに黙り込む。
律 「…蒼司さん?」
不安になって呼びかける。それからさらに数秒。
蒼司 「律、あのな。今日、考えろっていってたろ、離れてどうかってさ」
律 「はい」
蒼司「それでな、俺たち部屋を分けようと思うんだ」
律 「え?」
蒼司 「やっぱり、ええと、別のほうが良いんじゃないか?」
律 「何でですか、蒼司さんが…嫌だって言ったんじゃないですか」
思いがけない話題に、律は理解が追いつかない。
蒼司 「言った。でもわがままだった。別の方が楽になる」
律 「どういう、意味ですか?」
蒼司 「律が居ないほうが、楽だったし、律も楽だと思ったんだ」
いつもなら蒼司の真意を聞き出すのだが、律は自分でも驚くくらい動揺していて頭が回らない。
たった1日半離れただけで、あの日側にいたいと言った言葉が覆ってしまった。
なぜ?
昨日まで、お互いに気遣いながら過ごせて居たと思ったのに。
律 「僕が居ないほうが楽、なんですね」
蒼司 「律だってそうじゃないのか」
律 「…僕は…わかりません」
蒼司 「じゃあ、帰ってきたら、話そう。今日はもう遅いしな」
蒼司の声色は、いつもと変わらない。
律は自分だけが取り残されたような感覚に陥る。
さっき感じた暖かさが急激に冷えていくようだった。
律 「…側に、居てくれるって、言ったのに」
まとまらない思考の中で、やっと口をついたのはそんな言葉だった。
律は自分の声が震えたのが分かって、慌てて電話を切った。
手からスマホが滑り落ちて、ベッドの上でバウンドする。律もそのままベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めた。
じわじわと涙があふれて、枕カバーに吸い込まれていく。
突きつけられた言葉だけが残る。
「律が居ないほうが、楽だった」
何か理由はあるんだろう。
それ以上に、拒絶されたように感じてしまった。
嗚咽を抑えていると、辛さが襲ってくる。
僕が距離を取っていた時の蒼司さんも、こんな気持だったのかもしれない。
律 (酷いこと、してたんだな)
それが今になって分かっても、蒼司の口ぶりから決意は固そうだった。今度は自分が耐える番だ。
そう思っても、しばらく涙は止まらなかった。
――第29章:言葉足らず
「側に、居てくれるって、言ったのに」
律の涙声が聞こえたかと思うと通話が切れてしまった。蒼司は青ざめる。
言いたいことは言ったが、伝えたいことが伝わっていないと思った。
蒼司 (また泣かせてしまった…!?)
あの日、玄関前で泣いていた律の顔が頭をよぎって、胸が締め付けられる。
スマホの画面を見て、もう一度通話をしようと指を伸ばしてやめた。
かけ直しても、律のあの様子では出てくれないだろうことは、容易に想像がつく。
蒼司 (伝えるって難しいな…。あれ、そういえば体が楽だ、と言ったか?)
蒼司はスマホを握りしめながら、空いた手で頭を掻きむしった。
会話の内容を思い出そうとするが、律の様子が気になって記憶を手繰り寄せられない。
蒼司 (もう一度、ちゃんと話そう)
蒼司は立ち上がり、部屋着から着替える。
ポケットにスマホと財布だけ詰めて、寮を飛び出した。
門限はとうに過ぎているが、居ても立ってもいられなかった。
大通りまで走り、タクシーを捕まえて律の家へと向かう。前に律の家まで向かった道のりを思い出しながら、運転手に場所を伝えた。
そうする間にも、律からの連絡はやはり無かった。
――第30章:決裂
アパートの階段を駆け上がる音がして、志保がふと耳を澄ます。
その足音は自宅の前で止まり、次いでコンコンと玄関ドアを叩く音がした。
夜11時過ぎ。
こんな時間に誰だろうと、恐る恐る玄関に向かう。律も気づいて部屋から顔を出した。
志保 「あら?」
ドアスコープを覗いた志保が気の抜けた声を出す。志保が玄関を開けるとそこには蒼司がいた。走ってきたのか、少し息が上がっており、白い息が夜に消えていく。
蒼司 「すみません、夜遅くに。律君、いますか?」
その声を聞いて、律が驚いて玄関にやってくる。
律 「なんで」
蒼司 「少しでいい、俺の話を聞いてくれないか」
志保は2人の様子を伺った。
蒼司は律の顔を見る。
目や鼻が赤くなっている。
明らかに泣いていた顔だ。そうさせたのは自分だと、胸が傷んだ。
蒼司 「志保さん、律君ちょっと借ります」
蒼司は言うと靴を脱いで家にあがり、戸惑う律の腕を引いて再び家の外に出た。
志保は少し驚いたが、敢えて止めることはしなかった。
蒼司は腕を掴んだまま、律を引っ張ってアパートから離れる。
律は、部屋着に革靴というアンバランスな格好だった。急に現れた蒼司と自分の格好と寒さに、まだ混乱が解けない。
律 「ちょっと、どこ行くんですか!?」
蒼司 「分からないが、話がしたい」
律 「あの、腕、離してください」
蒼司 「話を聞いてくれるならいいぞ」
律 「っ!分かりました、聞きますから…!」
蒼司は律の腕から手を離す。律は握られた部分を少しさすった。
蒼司 「…すまん。痛くなかったか」
律 「痛いというより、驚きのほうが大きいです。…何しに来たんですか?」
話しながら歩くと、小さな公園があった。
遊具はブランコと砂場だけの寂れた公園だ。街灯があるが、明るさは十分とは言えない。
でも、今の状況は明るすぎる場所では話しにくかった。
2人はベンチに揃って腰掛けることにする。
律は蒼司から少し距離を開けて座った。律が座ったのを見て、蒼司がゆっくりと口を開いた。
蒼司 「さっきの電話だが」
律 「蒼司さんが離れたいというなら、離れます」
蒼司 「俺はそんなことは言ってない」
律 「僕と居ないほうが楽だと言ってたじゃないですか。なら、蒼司さんの提案を飲みます」
律は頑なにそう応える。言いながら離れがたさに胸が締め付けられるようだ。
蒼司は、言いたいことがやっぱり伝わっていないと感じた。言葉を探しながら、改めて伝え直す。
蒼司 「楽というのは、気持ちじゃなくて、体のほうだ」
律 「…以前、僕も言いました」
蒼司 「俺は、今日初めてそれを実感したんだ」
律 「僕がいなかったから、ということですよね」
蒼司 「そうだ」
律 「それでも、側に居てくれるって、思ってました」
律が諦めたような口調でこぼした。
蒼司の顔が歪む。
蒼司 「そのつもり、だったんだ。でも、俺は何も分かってなかった。律が言ってただろ?距離が離れた時どう感じるかって確認しろって」
律 「…それで?」
蒼司 「体が軽かった。楽だと思った。俺がそう感じるんだから、律も同じじゃないかって」
律 「だから、部屋を分けたいって言ったんですか?」
蒼司 「そうだ。俺はオメガじゃないから、ヒートがどれだけ辛いかは分からない。でも、辛そうな律を見るのは嫌だ」
律 「オメガにとってヒートはつきものです。それに、あれ以来、誘発もされていません」
蒼司 「また誘発される可能性はあるし、毎日感じる俺のフェロモンが少しずつ影響してるかもしれないだろ」
律 「なら、蒼司さんにもラットのリスクがあります。…この話、なんだかずっとしてますね」
そう言うと律は、立ち上がった。
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