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7月29日 2
電話をかけると、ペポっと音がした。
「遊んでる?」
『触ったら鳴いちゃうんだもん』
今日買ってあげたぬいぐるみの鳴き声だったようだ。
帰り際に立ち寄ったお土産コーナーにて、遥と相談して決めた結果ぬいぐるみをお互いに一つ送り合うことにした。俺が遥に選んだのはイルカだった。遥が気に入っていたクラゲと迷ったが、イルカショーで笑う顔が忘れられなかったためイルカに決めた。反対に遥はクラゲを選んできた。理由は俺にクラゲの可愛さを分かってもらうためらしい。余計なお世話だ…。クラゲを渡してきた時に手を繋いだことを覚えておいて欲しいから?と仕返しに聞いたら、これまた綺麗な茹で蛸色になって俺の鳩尾を狙ってきた。ぎりぎり躱せたがあれは確実に殺る気だった、恐ろしい。イルカのぬいぐるみは体を押すとキュピ、とかペポ、とか音が鳴るようになっている。電話をかけた時に遥がそのイルカを触ったらしく鳴き声が聞こえてきたようだ。あげるときに子供っぽいかとも思ったが、音が鳴るとわかった瞬間遥が爆笑して可愛いと言っていたためそのまま渡した。ちなみに俺のクラゲは顔がついている。これは可愛いなと思う。これは。俺のクラゲは今勉強机の上で長い手足を伸ばしてゆったり寛いでいる。そのことを伝えると遥はペポペポ、とイルカを鳴らして返事をしてきた。
『クラゲ可愛いでしょ』
「顔はな」
『…顔以外可愛くないって言ってるように聞こえるんだけど』
敢えて無言で居ると向こうからもう!と遥の怒る声が聞こえた。これだけ触ってるってことは余程イルカを気に入ってくれたようだ。今日の話も適当に、俺は遥に次はどこに行きたいんだ?と聞いた。
『次?次はね、動物園行きたい!』
動物園か。やっぱり定番だなと思いつつ丁度いい動物園がないか探す。遥は暑さでダウンするだろうから、なるべく休憩できる場所が多い動物園がいい。そうしていくつか見繕ってまた遥に送った。
『あ、ありがとう!徹って探すの得意だね』
「探すの得意っていうか、検索に打ち込んでるだけだよ」
『でも僕どこがいいとか分からないからさ。地理的なこともそうだけど…』
遥は行ったことのない土地の方が多いんだろう。学校の遠足も修学旅行も行ったことがないのなら自分の住んでる地域以外出たことがないことが予想できる。出れたとしても病院だろうか。八月三十一日までにどこまで行けるか分からないが、遥をもっと遠くに連れ出したいという気持ちがある。
「他に、行きたいとこあるか?調べて送るけど」
『ほんと?ありがとう。今の所行きたいのはね、……ヒュ』
場所を言おうとした遥が勢いよく咳き込んだ。あまりにも酷い咳に大丈夫かと声をかけていると、誰かが部屋に入ってくる音がして通話がミュートになってしまった。こちらの声は聞こえる状態だが、遥がどういう状態なのかが分からない。何もできないことがもどかしい。もし隣にいたら背中くらい摩ってやれるのに。……誰かが近くにいるならまだ安心だが、それが家族なのか医者なのかは聞くことができない。ルールで決めてしまうほど、遥はプライベートを見せたくないんだ。
数分経つとミュートが解除され、遥がごめんねと掠れた声で謝ってきた。後ろの方で扉の閉まる音も聞こえた。
「気にするな。それより体調大丈夫なのか?」
『…大丈夫じゃないって言ったら、電話切っちゃうでしょ?』
この言い方的に大丈夫ではなんだろう。前にビデオ通話はしないのか?と聞た際は断られたが…理由は多分、体調が悪い姿を見せたくないからだ。それに、今みたいに誰かが来ると予想しているのもあるだろう。それはともかくとして、一週間前より、確実に体調は悪くなっている。…今日一日ずっと歩き回っていた訳だし休ませるべきだ。
「また明日も、電話は出来るだろ」
『……うん』
残念そうな遥の声。無理もない、遥にとってはこの一日が惜しいのだ。この言葉が残酷なことを知っている、知っているけど無理して寿命を縮ませる必要は無い。
「またあした、おやすみ遥」
『おやすみ徹、今日はありがとう。またあしたね』
ぷつと音がして電話が切れる。メッセージに行きたいとこの候補書いとけよと送っておいた。俺ができるのはこれくらいだから。遥からはーいとスタンプが届いたのを確認して、部屋の電気を切った。そして違和感に気づく。勉強机の上に置かれたクラゲが淡い青色に光っていた。これ…蓄光塗料塗られてる?そういや遥が俺にクラゲを渡してきた時わさわざタグを切っていたが、まさか気づかれないために…?頭の中にくすくす笑う遥の姿がありありと思い浮かぶ。俺はあいつのイタズラ心にため息をついて、こいつ夜光るのかよ!と遥にメッセージを入れて置いた。
次の日、遥からソウナンダーと白々しい返事か返ってきていた。
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