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8月12日 1
ランチを食べている途中で遥はまたトイレに行ってくると言い再び席を立った。本格的にシェイクで腹を壊しているんだろうか、遥が帰ってきたら暖かいスープを注文しよう、と思っていたが……それから数十分、遥はまだ帰ってきていなかった。俺が食事を終えても、食器を片付けに行っても、遥は帰ってこない。優に二十分は経った。…なぜだか、嫌な予感がする。怖くなった俺は貴重品だけ持って鞄を置きトイレに向かった。
先週見たおかしな夢のせいで遥とまともに話すことができず、電話を三十分以内に切ってしまうようになってしまった。最初のうちこそ遥もどうしたのと聞いてくれていたものの、俺が話さないとわかると聞かなくなった。…遥をベッドに押し倒してキスをして服を脱がそうとした、そんな夢を見たなんて口が裂けても言えなかった。電話で声を聞くたびに、夢で遥がだめやめてと言っていたのを思い出してしまって…結果、まともに会話ができない。
夢を見た日は本当に最悪な気分で、自分のズボンの膨らみを思わず嫌悪してしまうほどだった。そのせいで俺は朝からゲイビを探す羽目になるし、いいものがなかったせいで仕方なく夢の内容を反芻して抜くことになった。本当に最悪。その罪悪感も相まって余計に喋れなくなっていた。
そんなこんなで一週間は簡単に過ぎ去ってしまい、遥が希望していた遊園地に行く日になった。遥がジェットコースターは禁止されていないものの乗ったことがないためどのようなものかは分からない、と話していたから、軽めやかなり怖めなどジェットコースターの種類が色々ある所を選んだ。場所は電車で一時間ほどの距離。待ち合わせ場所は、電車の乗り換えの途中にある大きな駅にした。ちなみに昨日は気分が悪いから電話できないと嘘をついて断ってしまった。遥は大丈夫?明日無理そうなら連絡してねと俺の体調を心配していて心が痛くなった。
駅に着いて辺りを見回すと遥は駅の端にあるベンチに座り、いつものように俺を待っていた。
「はよ」
「…うん、おはよう」
けれどいつもと違うのは、声をかけても俯いてこっちを見ようとしないことだ。その上帽子を被っているため表情も分からない。普段なら俺に気づいたら笑って挨拶してくれているのに…これは、怒っているんだろうか。
「待たせた?」
「僕が先に来てるだけだからいいよ。それより徹は体調大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。それに、昨日は電話できなくてごめん」
「……うん」
まだ電車の到着まで時間があるから遥の隣に座ったものの、会話はどことなくぎこちない。それもそのはず、この一週間まともに話せていないのだから当たり前だ。しかし会話がないのもつらく、俺は当たり障りのないことを聞くしかない。
「ジェットコースター楽しみ?」
「すごく楽しみ。そういうとこに行ったことないのもあるし、昨日あんまり寝られなかった」
「寝られないのはいつものことだろ」
「そんなことないもん」
「出かけるたびに前日眠れなかったーって欠伸してるのに?」
「そ、それは…」
ぐうの音も出ないようで遥は少し頬を膨らませた。なんだその行動、かわいいな。
会話が終わってしまうと、どうしてもまた気まずい沈黙が訪れる。なんの話をしようか、そう悩んでいるとちょうどいいタイミングで電車が間も無く到着するというアナウンスがかかった。行こうと遥を立たせて俺たちは改札をぬけた。
「すっごい楽しい!!」
朝のぎこちなさはどこへ行ったのか。遊園地内で一番人気で一番怖いと呼ばれるジェットコースターに乗った遥は終始楽しそうに叫んでいた。入場した時はあれの乗るの?と怯えていたが、最初に乗った緩いジェットコースターで味をしめたらしくすぐに大型の方に行きたいと言い出した。大型に乗ったら流石に怖くなったようで、頂点に来た時は俺の腕を掴み首を振って怖がっていたが、落ちた瞬間遥の悲鳴は歓喜の声に変わっていた。降りてからも興奮冷めやらぬ様子で楽しかったとはしゃいでいる。俺は少し怖かったけど言わないことにした。
「ジェットコースターってこんなにすっきりするものなんだね!」
「お気に召したようで何よりだ」
他に何があるんだろう、と遥は絶叫マシンの一覧を眺めてはこれ乗ったら寿命縮みそう!とはしゃいでいる。普通の人なら何の気ない会話だが、現状を知ってる俺にとってはそれが遥の自虐だということを知っている。
「次はどれに行く?」
「メリーゴーランド」
「え?」
今の流れだとまた絶叫系かと思ったら違ったようだ。メリーゴーランドの方を見ると、子供も大人もどう数程度に並んでいる。でもやっぱりメリーゴーランドに男二人で乗るのはおかしい気がして悩んでいると、遥が顔を傾け俺の顔を覗きだめ?と言ってきた。ふわっと落ちる髪、唇を突き出して上目遣い。こいつ絶対自分が人にどう思われてるか分ってやがる。そんなふうに聞かれたらいいよと言わざるを得ない。
「…いいよ」
「やった!じゃああのでっかい馬に乗ろう!」
「あーはいはい」
メリーゴーランドは二階建てで、一階は子供向けなのか馬が小さく二階は大きな馬が等間隔に並んでいる。どっちの階層にも二頭の馬が引いている馬車がある。遥は二階の大きい馬をご所望のようで上を指して早速列に並んだ。それほど待たずにメリーゴーランドに通されると、遥はすぐに二階への階段を登った。俺も二階に上がると遥はすでに大きい馬の前に居て、それを見た俺はついいじわるしたくなり乗れるのかと聞いた。遥はくるっと振り返り俺を睨みつける。ちゃんと意味を理解してくれたようだ。
「僕そんなに小さくない!」
「俺よりは小さいだろ」
「ぐ、…でも百六十二はあるもん」
「ちょうど十五センチ差だな」
「……徹は少しは縮めばいいと思うよ」
むくれた遥が馬に跨ろうと鐙に足をかけ体を引っ張り上げたその瞬間、体が大きくぐらついて後ろに倒れてきた。咄嗟に腰を掴んで支え地面に降ろす。……軽い。見た目で分かっていたことなのにいざ直面してしまうと何とも言えない気分になってしまう。普通の男子校生とは全く違っていて、腰も異常に細かった。当の本人は俺が触ったこよりも落ちそうになったことに驚いているようだ。
「ごっごめんありがとう!」
「気をつけろよな、お前怪我したら一発で骨折しそうで怖いんだよ」
「えー…そこまで脆くないよ。でも気をつけるね、ありがとう」
お礼を言うと遥はもう一度馬に乗ろうと挑戦するが、どうにも不安で俺はうしろから腰を少し支えた。さっきはふざけて乗れるか、なんて聞いたけど本当に落ちるなんて思っていなかった。多分筋力も低下しているんだろう。
遥を馬に乗せた後、俺も隣の馬の鐙に足をかけひょいと乗ると、そのスムーズさに遥が何とも言えない表情でこっちを見ていた。しかしそれも束の間の出来事で、メリーゴーランドが動き始めれば遥は破顔させ楽しそうに笑い始めた。水族館や動物園の時より今日の方が何倍も楽しそうだ。同じ景色しか見せないメリーゴーランドにこんなに楽しめるのも、きっとこの歳まで何も出来なかったからだろう。これからも連れて行ってあげたい、そう思って俺は目線を自分の馬に戻した。遥に、これからなどない。今日は最後で最後の遊園地だ。あと二ヶ月位で、遥は居なくなるんだ。
メリーゴーランドが終わると遥はまた絶叫系に乗りたいといい出したためいくつか乗ったが、途中で俺がダウンして休むことになった。流石に絶叫マシン三連続は体が堪えた。
「ごめん徹…まさか徹がこういう系苦手だとは思わなくて…」
「……苦手、じゃないんだけど。ちょっと高いところがゾワゾワするというか」
無理やり付き合わせたと思っている遥が先ほどからずっと謝ってくる。断らなかった俺が悪いと言えば、少ししょんぼりしながらまたごめんと言った。
「いいよ、遥が楽しいならそれで。今までこれなかったんだから楽しめよ」
「…ありがとう」
遥は俺から目を逸らしながら、手の甲を軽く引っ掻いた。それは遥の照れている時の癖だ。変な雰囲気になる前に話題を変えることにする。
「そういや遥って写真あんまり撮らないよな」
遥にも適度な休息が必要なため、俺が動けなくなったついでにパラソルのあるベンチで休むようことにした。今は園内のキッチンカーでシェイクをふたりで頼んで飲んでいた。俺はバニラ、遥はチョコ。
「あ、うん」
「後で見返したりしない?」
「見返すと、なんか寂しくなっちゃうからあんまり撮らないんだ」
なるほど、確かにそう考えることもできる。その時はどんなに楽しくても、写真を見返す頃には全ては過去になっている。それは寂しいことかもしれない。それに、遥にとっては写真を見ればもっと行きたい、生きたいと思ってしまうからという理由もあるかもしれない。でも記憶は徐々に薄れてしまう。いつか記憶に留めておきたいような大事な一瞬を忘れてしまったら何も残らないことになってしまう。それは、もっと寂しいことのような気がする。
「……遥、携帯貸して」
「え、なんで?」
「いいから」
首を傾げつつも遥は携帯を渡してくれた。俺はロック画面からカメラを開いて内カメラにすると、すぐに遥の反対側の肩を抱き寄せパシャリと一枚写真を撮った。写真を見ると、遥は急なことに反応できず少し面白い顔をしていて、対して俺は普通に笑っているふうに映っていた。はい、と返せば呆然としていた遥は息を吹き返したように真っ赤になり声にならない悲鳴をあげた。
「な、な、なにっして、」
「思い出。一つくらいはいいだろ?」
「…………」
遥は携帯をぎゅっと握りしめ、俯き、ありがとうと震える声で言ってきた。泣きそうな声だった気がする。
「でも僕の顔が気に入らない」
しかしぱっと顔をあげた遥は普通に不満そうな顔をしていた。実際びっくりしているせいで写真の遥はなかなか面白い顔をしているが、俺的には時々する意地悪そうな顔より断然好きだ。
「俺はその写真好きだぞ」
「僕の顔変じゃん」
「可愛いんじゃない?」
「かわ、かわ、かわっ」
「可愛い」
あわあわ。口をぱくぱくさせる遥は可愛い。そう、遥は可愛い。多分これは俺の欲目もあるだろうが、遥が可愛くて仕方がない。そうやって照れるところも逃げ出そうとベンチから立ち上がるところも、俺がだめ、と腕を引っ張ると完全にフリーズしてしまうところも、全てが可愛い。
――好きだと言ったら、遥はどうするんだろう。今みたいに逃げ出すんだろうか。それとも泣くんだろうか。俺は遥が俺のことをどう思っているのかを知らない。手が触れるだけで硬直するのは人と触れ合う機会が少なかったせいなのか、それすら恋人ごっこの演技なのか、それとも本当に俺を意識しているのか。もし俺を意識しているなら、好きだと言った時遥は二重の意味で泣くんだろう。もう俺と居られない悲しみと、最後に俺と一緒にいられてよかったという気持ちの狭間で……。
でも俺は、この気持ちを口に出すことはないんだろうという確信がどこかにあった。俺は、まだゲイだと周りにバレるのが怖くて…それに、遥も俺に好きだと言って欲しいなんて望んでいない気がするからだ。
その後遥はお腹が痛いと言ってトイレに駆けて行った。多分いつも通りの照れ隠しだ。どっちにしろ俺は時間がかかるであろうと確信し、テーブルに盗られないような荷物を置いて近くのレストランのメニューをもらいに行った。乗り物に並ぶ時間が長く、また休憩も取っているせいで今の時間は十五時近くになっており、時間的にもちょうどいいからついでだから昼食も食べてしまおうという寸法だ。一応遥の携帯にもメニューをもらいに行っているというメッセージも入れておいた。これなら帰ってきても俺を探さなくても済む。そうして俺が席に戻った数分後、遥は若干まだ赤い頬をしながら帰ってきた。
ランチを食べている途中で遥はまたトイレに行ってくると言い再び席を立った。本格的にシェイクで腹を壊しているんだろうか、遥が帰ってきたら暖かいスープを注文しよう、と思っていたが……それから数十分、遥はまだ帰ってきていなかった。俺が食事を終えても、食器を片付けに行っても、遥は帰ってこない。優に二十分は経った。…なぜだか、嫌な予感がする。怖くなった俺は貴重品だけ持って鞄を置きトイレに向かった。男子トイレに入ると、遥が床に蹲っていた。
「遥?!」
慌てて駆け寄ると、遥は青白い顔で俺の方を見てきた。
「と、おる…?」
「どうした、気分悪いのか」
「……ちょっと、うん…」
遥が見上げる洗面台の上には、注射器と薬が置いてあった。どうやらこれが必要らしい。注射器と薬を渡すと、遥は震える手で注射器を自分の腹に刺し、カバンから水を取ると自力で薬を飲み干した。ほっとしたように肩を撫で下ろすと、俺の方を向いて心配かけてごめんねと言ってきた。
「ほんとに、大丈夫なのか」
「うん。薬飲む時間合わせるの忘れてちょっとふらついただけ」
先程より幾分か顔色は良くなっている気がする。それでもまだ目は虚ろで、今どれだけ遥の体調が悪いのかが伺える。
「お前、なんの病気なんだよ…」
その姿を見て俺は思わずそう聞いてしまった。遥は俺の方を見たあと酷く咳き込み、緩く首を振った。
「……ごめん、言えない」
「っなんで、まだ隠すんだよ」
俺が非難の声を上げても遥はか細い声でほんとにごめん、と小声で言っただけだった。薬を1回でも忘れると動けなくなるほど酷い状態なのに、まだ遥は秘密を守ろうとする。本当はどんな病気で、対処法はないのか、本当に生きられないのかを問い詰めたかった。けれど病気のことは聞かないとルールで決めてしまっている。俺が聞けるのは、大丈夫か、大丈夫じゃないのか、それだけだ。
「……つらくなったらちゃんと言え」
遥はありがとうと言って微笑みながら頷いた。
席に戻ったあとはふたりとも無言になってしまって、遥は残っていた食事を食べ終えると居心地が悪そうに携帯を弄り始めた。俺が何してるの、と問えばなんにも…と返ってくる。そしてまた無言。なんとなく気まずい。遥は普段俺に弱ってる姿を見せまいとしている。多分見られたくないんだろう、特に俺には。弱ってる姿を見せたら俺が心配することも、病気を聞いてしまうこともわかっているから。
しかしせっかく遊園地にきたのにこのまま居ても仕方ないから観覧車に乗ろうと言った。絶叫マシンが多いこの遊園地では一番緩い乗り物である観覧車が不人気らしく、すぐに乗れるらしい。これは少し前の電話で遥から聞いたことだ。俺の提案に大人しく頷いた遥は入場ゲートでもらったパンフレットを見て位置を確認し、席を立った。
観覧車の場所に行けば本当に不人気なようで並んでいるのはカップルらしき人が一組と、家族連れの一組だけだった。そのおかげで特に並ぶことなく乗ることができた。ここまで来る間、俺も遥も無言だった。喧嘩、したわけじゃない。でも俺はまだ遥が隠していることにモヤモヤしているし、遥は遥でどう思っているのかわからない。そもそもこいつは秘密ごとが多すぎる。いまだにどうして俺なのか、何で俺がゲイってことを知っているのかを話そうとしない。俺自身も聞かないのが悪いんだろうけど…。
何度目かわからないため息をつく。観覧車に乗ってある程度の高さに来ると、この雰囲気に耐えられなくなったのか遥がとうとう口を割った。昨日の夜から体調が悪かったのだと、今朝顔を見ず俺の方に寄ってこなかったのも、動く元気がなかったせいだと。それを聞いた俺は深く、かなり深くため息をついた。言わなかった遥にも腹が立ったが、昨日電話をかけかなかった俺にも苛立っていた。俺が変に気まずくならなければ、いや、そもそも俺があんな夢を見なければ、電話をかけて遥の体調が悪いことに気づけたかもしれないのに。
「ごめん…」
「僕が悪いんだよ!無理してきたんだし」
「いや、俺が電話を嘘いって断ったから…」
「え、嘘?」
言ってから口を抑えた。遥はきょとん、とした顔をして、次の瞬間すーーーっと流れるように肩を落とした。
「そう、だよね…電話したくないよね、毎日とかしんどいよね、うん、そもそも30分で終わりのルールなんだし、電話断ったのが嘘だったとしても僕に怒る権利ないよね……」
遥の上に暗澹とした雨雲が見える。先週から俺はやらかしすぎている。しかしまだ夢の話をする気になれなくて俺は口を閉じるしかなかった。そうするうちに遥の声はさらに小さくなり鬱々としてきている。
「…………でも……でも、それを話してくれないのは悲しい…」
その呟きにバッと遥の方を見れば、遥は悲痛な顔をしながら俺の方を見ていた。
「僕の病気が鬱陶しくなったとか、対応が疲れたとかならちゃんと言って欲しい…流石に何も言わずに関係を切られるのは辛い…」
遥はこの一週間、俺の態度に怒るどころか全部自分のせいだと思い込んでいたようだった。俺が急に電話を手短に済ませるようになったのも、その理由を話さなくなったのも自分のせいだと思い込んで…。今更になって俺はなんて馬鹿なんだと思い知らされた。
「ごめん、ほんとにごめん。ちょっと…あーもう、いいよ話す」
「別に無理して話さなくても…」
「最初に言っておくと、遥のことが鬱陶しくなったとか対応疲れたとかじゃないって言っとく」
「あ、そう、なんだ…」
ほっとした遥の顔。でも今から話す内容でこの表情が全く違うものに変わるのを俺は知っている。
話終わった後、遥は顔を手で覆って体を折りふるふると震えていた。
「……だから、その、うん。遥が嫌になったとかじゃないってのは言っとくな」
「……………………もう何も言わないで」
「ごめん」
「い、いくらそういうのできないからって、人の体で、そん、うう」
「ほんと、ごめん」
「…………と、徹は」
言い淀む遥。なに?、と先を促せば、小さく何かをつぶやいた。聞こえなかったから聞き返すと、遥は顔から手を外して徹は僕で興奮するの?!と今度は逆に大声で聞いてきた。顔は真っ赤。…恥ずかしいなら聞かなければいいのに。
「興奮する」
「ひぇ」
今のひぇ、は引いてる方じゃなくて完全に照れている方だと表情を見ればわかる。
「その…どこに興奮するとか、聞いていいの」
「あー、うなじの部分とか正直好み」
「この、み」
「あと腰細いのエロい」
「エロっ……」
「身長小さいのも可愛い」
「も、いい、やめて」
「言動も可愛い」
「もう聞きたくない変態!」
自分から聞いてきたくせに変態とは失礼な。遥は耳を塞いで俯いている。でもそのせいで赤くなったうなじが丸見えで…俺は思わずその部分に触れたくなって手を伸ばしてしまった。触れた瞬間遥はひゃあだかきゃあだかよく分からない声を上げてぱっと顔を跳ね上げさせた。俺は遥のうなじを触ったせいで遥に近づいていたし、遥も下を向いていたせいで距離感が測れていなかったんだと思う。
キスをしたことに気づいたのは、観覧車が緊急停止して少し経った頃だった。
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