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10月2日
みんな、必死になって探してくれた。この見た目の男子を見たことないか、とか、病院に入院していないかとか聞き回ってくれた。でも、ほぼ外に出たことのない遥は誰も目撃情報にも上がらず、そもそもどこに住んでいるのかもわからないために見たことがないだけなのか知らないのかが判別できなかった。加えて病院は守秘義務があるせいでそもそも教えてくれない。
俺もできることはした。遥が来ていた電車の方向を辿ってみたり、遥が吐血して緊急搬送された病院に行ってみたり。でも辿ったところで遥の降りたであろう駅はわからないし、搬送された病院で会った遥の担当の先生はそこの先生じゃなかったらしくいなかった。
まさしく万事急須。
そうして進展がないまま十月に入ってしまった。遥が自分が死ぬのは十月上旬と言っていたこともあって、希望が諦めに変わり始める。それでももしかしたらというわずかな期待を胸に、必死で駆け回った。
「最近、食欲がなさそうだってお父さん心配してたわよ」
そんなことを夕飯時に言われて俺はお茶を吹き出しかけた。結局器官に入ってしまって咽せたけど…今のは聞き間違いだろうか。
「い、今、なんて?」
「え?だからお父さんが徹のこと心配してたわよって」
「父さんって、俺の心配するんだ」
俺の呟きを聞いた母さんが台所から怪訝な顔をして俺を見てきた。
「当たり前じゃない。私より徹の心配してるわよあの人」
「だって全然話さないし」
「お父さんが寡黙なのはよく知ってるじゃないの」
「でも、…心配されるのが不思議っていうか」
流石に俺の当惑ぶりに疑問を抱いたのか、母さんは台所から出てきて俺の座るソファーの隣に座った。
「なんか誤解してるみたいだけど、徹がカミングアウトしてくれた日にお父さん寝室で泣いてたのよ?俺はあいつにかけてやる言葉すら見つからないって」
「泣いてた?!」
「そうよ。これからの人生、どれだけ生きにくいかを考えて泣いちゃったのよ」
カミングアウトした日に見た父さんは気難しい顔をしていて、俺はそれがゲイである息子のことを拒絶する表情なのだと思っていた。違ったんだ、ただ、泣きそうな顔を隠していただけだったんだ。
「でも、次の日俺のこと無視してたし」
「多分ただ単に泣いたことを思い出して気恥ずかしかっただけよ」
「最近二人でよく喧嘩してたし…」
「あれはお父さんがあまりにも徹のことを心配するから私が苛立っちゃったのよ。そんなに心配なら口に出して言いなさいってね。でも今日の徹の話聞いてわかったわ、まだ言ってなかったのねあの人…」
母さんはため息をついて天井を仰ぎ見た。遥の言うとおり間違いだった。父さんは俺を無視したわけじゃなくて、気恥ずかしくて話ができなかっただけだった。結果的に無視されたことに違いはないけれど、その意味を知った今、父さんが冷徹な人だとは思わない。ああ…遥に会って話したい。遥の言うとおり勘違いだったと、父さんはちゃんと俺に愛情を持ってくれていたと。それにこの間言ってしまったことも謝りたい。あんなこと言うつもりじゃなかった。ただ、俺はやっぱり遥と一緒じゃないと幸せになれない、忘れたくなんかない。それを言いたかっただけなんだ。
「母さん、俺、好きな人がいるんだ」
自然と、口からその言葉が溢れてきた。今までならきっと、口に出すことすら憚られただろうに、遥のことを思えばスルスルと言葉が出てくる。ああ、会いたい。
「あら。そうなの。また今度紹介してくれる?」
できるかどうかわからないその返事に俺は大きく頷くと、玄関の方からガタガタと音がした。その音はそのまま父さんの部屋の方に消えて、なんとなく会話を聞かれていたんだろうとわかった。母さんもその音を聞いていたようで、今日もお父さん泣くわよ、なんて茶化す気満々の笑みで言った。
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