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「……中学から、高校の二年まで」
ぽそりと呟いて、結月はさっとそばにあったバッグを手繰り寄せる。こちょこちょと外ポケットのファスナートップをいじる指先を眺めながら、晃大は問い返した。
「三年のときは? 続けなかったの?」
五年間も同じ部活を続けながら、なぜ残りの一年を放棄したのだろう。
受験勉強のため? それとも、怪我だろうか。だとすれば、あまり踏み込んで訊くべきではないかもしれない。
「……別に、飽きたから辞めただけ。俺、テニス向いてなかったし」
「ふーん?」
その割には、そんな中高生がつけていそうなキーホルダーを、今なお大事そうに持ち続けているのか。過った思考は、しかし、決して声には出さなかった。
口ぶりからして、結月はきっと高校に入ってから一度もレギュラーに入るとこができなかったのだろう。テニス歴五年にしてその扱いでは、辞めたくなるのも理解できる。
バックに装着したキーホルダーを見つめてじっと黙り込んでしまった結月の態度を受けて、晃大はふと、意識して軽い声を出した。
「つか、俺も中高テニス部。しかも、高二で同級生と殴り合いして、謹慎処分食らって退部した」
「え、殴――」
「軟式? 硬式? 中学は大体軟式だよな」
「へ? え、うん……多分……?」
ぱちぱちと目を瞬いて、結月はまたぽそりと答えた。
「中学は軟式で、高校は硬式……」
「お、一緒。俺も高校は硬式だった。やっぱ、テニスって言ったら硬式だよな。ほら、昔やってたあのアニメも――」
口にしたタイトルに、結月の表情がパッと明るくなった。「俺もそれ見てた!」と食い気味に反応して、実家に全巻漫画が揃っていることまで教えてくれる。
途端に饒舌になった結月におうおうと相槌を打ちながら、頭の片隅で、やっぱこいつテニス好きなんじゃんと晃大は思った。一番好きなキャラの紹介から始まり、敵キャラの魅力まで語り始めた結月の気が済むまでとことん話を聞いてやった末に、晃大はふと、さり気なさを装って口を開く。
「あー。なんかいろいろ話してたら、久しぶりにやりたくなってきたな、テニス」
「え?」
嬉々としてテニス愛(アニメ愛?)を語っていた結月が、ぱちくりと目を瞬いて言葉を止める。
「どっかこの辺でコート借りれるとこねーのかな。あったらどう? 一緒に行く?」
「えっ、と……それは……」
途端に、結月の歯切れが悪くなる。
なにも、強引に連れ出そうというわけではない。結月がその気なら、それも悪くないかなと思ったくらいのことである。
「まあ、俺強いからな。気が乗らないなら、ほか当たるけ――」
「お、俺だってっ、そこそこ強いほうだしっ! 勝手に弱いって決めつけるなよ! このっ、無礼者!」
無礼者は間違いなく、人の枕に陰毛をつけるやつのほうだろう。
「よし、じゃあやるか。負けたら罰ゲーム。一回飯奢りな」
「むむむ……」
しばらく難しい顔をして考え込んだ後、結月は意を決したように首を縦に振った。
「いいだろう! 受けて立つ!」
はい。結月、罰ゲーム確定。晃大は中一から高二まで、一度たりとてレギュラーを逃したことはない。中三でキャプテンを務め、高二で出た県大会での戦績はベスト8。控えめに言って、負ける気がしない。
――ちょっとは手加減してやらないとな。
失礼なことを考える晃大とは裏腹に、結月はなにやらぶつくさと呟きながらゴミ拾いを再開したようだ。
「コテンパンニシテヤル……」
闘志を露わにふんぬとゴミ袋に陰毛を突っ込むその姿を見て、無意識でふっと笑みが零れた。
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