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3-5
「っと、危ね」
ふとした隙に、スライスや無回転を仕掛けて揺さぶってくる。攻撃力は低いが、タイミングを崩して相手のミスを誘発するプレイ。油断できない。
「ははっ、やってくれるじゃん。だったらこっちもっ――」
速度は一切落とさず、ベースラインぎりぎりを突いた逆クロス。わっと声を漏らした結月が、慌てて一歩踏み込んで腕を伸ばす。
油断できないのは、お互いさまだ。一瞬の判断を誤れば、晃大のラリーにはもうついてこられない。
ポンッとベースライン上でバウンドした球が、ラケットの数ミリ先を切り抜けて結月の背後へと飛んでいく。
「あーっ! やられたーっ!」
悔しそうに声を上げて、結月は小走りでボールを拾いにいく。
長く続いたラリーほど、ミスったときのダメージはデカい。その一点のために消費した体力と精神力を思えば、当然のことだ。
本来、さくっと結果だけを得たい晃大にとって、結月のようなプレイヤーは性に合わない。しかし、どうしてだろう……。
「おりゃ! 食らえっ!」
腹いせとばかりに、わざと取りにくい位置に出されたパス。
「おいこら」
晃大は慌ててラケットを伸ばし、ひょいとそれを受け止めた。
全く、困ったやつだ。ラリーは長引くし、負けたら八つ当たりするし。
なのに、なぜ……。どうして今、自分はこんなにもわくわくしているのだろう。
「……よし。もう一点、決めんぞっ」
高くボールを放り投げて、最高打点から叩き落とすようにラケットを振り下ろす。破壊力満点のフラットサーブ。
「させるもんかっ」
咄嗟の瞬発力で返ってくる球。続く駆け引き。自分の球に反応して相手が動き、相手の球に反応して自分が動く。
――あれ、テニスってこんなに楽しかったっけ……?
油断した隙に、ドロップで体勢を崩された。
「あ、やば」
なんとか打ち返した球を、ボレーで直接コートに叩き込まれる。ころころと自陣で転がる球体を眺めて、晃大はゆるりと瞬いた。
「へへーん! フィフティーンオール! 同点だ同点! ぼうっとしてんなよ!」
打って変わって、結月はご機嫌そうにふんぞり返る。小生意気にもほどがある。なのに、全然腹が立たない。どころか、ふっという笑いが鼻をつく。
「なっ、なに笑ってるんだっ! 今のだって、立派な一点なんだぞっ! 速いだけが正義だと思ったら、大間違いなんだからなっ!」
「あー、はいはい仰る通り。わかったから、そんなプンスコ怒んなよ」
「プンッ――⁉」
目を見開いた結月が、次の瞬間、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
負けて八つ当たりしたかと思えば、勝って調子に乗って。笑われて怒ったかと思えば、拗ねてへそを曲げる。
――ああ、そっか……。
楽しいのは、テニスじゃなくて結月のほうだ。結月といるから、今、こんなにも胸がわくわくしているんだ。
「次、一本行くぞ」
掛け声の後、晃大はふっと目を瞑って呼吸を整える。頭上に放り投げたまん丸な球体が、世界を照らす太陽に重なって光り輝いて見えた。
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