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3-6

「お、まえ……マジ、粘りすぎ……」  コート脇に設置されたベンチにぐったりと凭れかかって、精根尽き果てた声を晃大は漏らす。 「だっ、て……負けたく、なかったから……」  そういう結月は、晃大以上に汗だくのへろへろだ。 「にしても、誰が1セット取るのに一時間半もかけるんだよ……。しかも、結果は6対1って」  いうまでもなく、勝ったのは晃大のほうだ。結果だけ見れば圧勝。しかし、かかった時間は過去最長だ。  とにもかくにも、ラリーが切れない。異常なまでの守備力の高さ。決定力に欠けることと体力差が物を言い、最終的には勝利を納めることができたけれど、こんなに苦戦した試合は始めてだ。小熊結月、おもしれー男すぎる。 「だから言っただろ、そこそこ強いって。勝てはしないけど、弱くもないんだ」 「いや、そこそこってか、普通に強いだろ。ダブルスで攻撃力のある前衛と組めば最強じゃね?」  思ったことをそのまま口にした直後、どうしてだか結月の表情が曇った。 「ダブルスは、もう……」  なにやら口ごもる結月に重なって、ふと、隣のコートから聞き慣れない声がかかる。 「あれ……? 結月? おまえ、結月だよな?」  途端に、はっと結月の肩が跳ねた。おじおじと声のする方へと向けられたその瞳が、たちまち、まん丸に見開かれる。 「大島(おおしま)、先輩……」  零れ落ちた声に、大島と呼ばれたその男の表情がぱっと明るくなった。 「おお、やっぱ結月じゃん。やべー、超久しぶり」  大股で歩み寄ってくる大島につられて、結月が慌ててベンチから腰を上げる。向き合った二人は、十センチ以上の身長差があるように見受けられた。  結月が小柄なのもあるだろうが、大島は大島で、そこそこの長身の持ち主だ。百七十五センチ強といったところか。引き締まった筋肉といい、短くカットされた黒髪といい、少し鼻につくレベルで好青年らしい風貌だ。  部外者の晃大は座ったまま、なんとなしに二人の会話に耳を傾けた。 「お、お久しぶり、です……。今日は、どうしてここに……?」 「いやそれ、こっちの台詞。おまえ、まだテニスやってたのか。俺が引退してすぐ辞めたって聞いてたんだけど」 「あ、いや……今日は、ほんとにたまたまで……」  ふっと、結月は足元へと視線を下ろした。  結月がテニスを辞めたのは高二。つまるところ、大島は結月の一つ上、晃大と同い年ということだ。  くいと首を傾げた後、「……ていうか」と大島が声を発した。 「おまえ、俺に黙ってチャット変えただろ。言えよなー。俺、知らずに何回かメッセージ送ってたんだけど」 「えっ、あ、それは……っ。それは、その……っ」  突然の再会で緊張しているのか、結月の態度がぎこちない。顔を上げ、あたふたと視線をさまよわせた後、またふっと頭を下げて呟いた。 「ごめん、なさい……。一回、ポケットに入れたまま洗濯しちゃって……。スマホごと、変えることになったから……」 「はぁあ?」  響いた声に、俯く結月の表情が強張った。  張り詰めた空気。場合によってはフォローに入ろうかとも思った矢先、肩を揺らして大島が吹き出した。

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