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「おまえ、ほんっとおっちょこちょいだよな。高校んときも、しょっちゅう間違えて俺のジャージ持って帰ってたし。おまえんちの洗濯機、雑食すぎんだろ」  笑いながら、大島はわしゃわしゃと結月の髪を撫でる。雑な手つきだが、結月はどこか安心したように表情を和らげて「ごめんなさい」と肩を竦めた。  一瞬、空気が張り詰めたように感じたのは気のせいだったらしい。無言で二人の様子を眺めていると、一拍を置いて大島が息をついた。 「……でも、正直ちょっと安心したわ。俺、てっきりおまえにブロックされたんじゃないかと思ってたから」 「え……」 「連絡先、聞いてもい? また今度、二人でゆっくり話がしたい」 「あ、えっと……それは、その……」  ふっと視線を逃がした結月を、大島はどこか縋るような目で見つめた。数秒、妙な沈黙が流れた後、結月は控えめに顎を引いてみせる。 「はい、それじゃあ……」  ベンチに置いていたバッグに手を伸ばし、スマホを取り出す。その様子を見ていた大島が、なにやら気づいたように声を発した。 「あ、それ」  スマホ片手に振り返った結月が、ことりと首を傾げる。大島は背負っていたラケットバッグを正面に向け、「ほらこれ」と嬉しそうに目を細めた。  メタルパープルのラケットと、蛍光イエローのボール。結月のバッグに装着されたそれと色違いのミニチュアキーホルダーが、ファスナートップにぶら下がってキラキラと輝いている。 「あ……」  ゆるりと、結月は瞬いた。 「びっくりした。おまえもまだ、持っててくれたんだな」  口調からして、大島から結月へとプレゼントしたものらしい。「はい……」と控えめに頷く結月に、大島はなおも嬉しそうに目元を綻ばせている。  ――男同士で、揃いのキーホルダー……。  仲のいい同級生ならともかく、先輩と後輩で……? 「じゃあほら、チャット」  さっとポケットからスマホを取り出し、大島が促す。 「あ、はい……」  素早くスマホを操作して、二人は連絡先を交換した。 「よし。じゃあまた近いうち連絡するから。……もうスマホ洗濯すんなよ?」  からかうような口調に、結月は頬を赤くしてこくりと頷く。 「気をつけます……」  後輩らしい素直な返事に微笑して、大島はまたくしゃりと結月の頭を撫でた。  ……四秒、五秒経ってもその手は離れない。さきほどとは違う、優しい手つき。さわさわとしつこく結月の髪をまさぐり続けている。 「……あ、の?」  不思議そうに結月が首を傾げたのと同時、隣コートからこちらへと向かって男の声が響いてきた。 「おーい! 大島ー! そろそろ始めんぞー!」  はっと肩を揺らし、大島が背後を振り返る。今行くと大声で返すなり、またすぐに結月へと向き直った。 「……じゃあ結月、またな」  一体いつまで頭に手を乗せているつもりだろう。 「はい、また……」  返事を聞いてようやく、大島は名残惜しげに結月の髪を梳きながら指先を引いた。ふとこちらに視線を向けたかと思うと、ぺこりと頭を下げられる。 「お時間とってすみません」  ご丁寧な謝罪に、晃大は間を開けて「いーえ」とだけ返しておいた。  最後にもう一度だけ結月と視線を交わした後、大島は小走りで隣コートへと戻ってゆく。その後ろ姿を、結月はその場に突っ立ったまま、しばらくの間ぼうっと眺めていた。

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