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「先輩って、あんときの?」  問い返すと、結月はたじたじと首を縦に振る。 「う、うん……。あのあと、すぐ連絡きて……」  大島、といっただろうか。確かに、また今度二人でゆっくり話したいという旨のことを言っていた気がする。 「へえ。猛アタックじゃん」  冗談のつもりで言ったが、結月は思いのほか罰が悪そうに視線を逸らした。 「そ、そんなんじゃないし……」  まあ、それはそうだろう。男同士で、そんなんやこんなんがあるほうが珍しい。ないとは断言できないけれど。 「んじゃ、まあまた来週かな。……つっても、結構先の話だし、お互い空いてたらって感じで」  あまり前もって予定を入れるのは好きじゃないのだ。その時々に応じたノリで生きている晃大にとって、計画性などないに等しい。  波が来れば乗る。来なきゃ、別の波を探す。さながら、サーファーのような日々を送っている。足元に押し寄せるさざ波を、砂浜でぼけっと眺めているなんてできない。  もう少し年を重ねれば、そのうち落ち着くときがくるだろうか。そのとき自分の周りには、なにか一つでも大切なものが残っているだろうか。  考えると、余計にじっとしていられなくなる。その場凌ぎでいいから、上辺だけでいいから、今この瞬間、誰かと繋がっていたくなる。 「わかった……。来週は、ちゃんと開けとく」 「や、別に空いてたらでいいって。俺も、いつ予定入るかわかんないし」  自分たちが、そこまで優先度の高い関係でないことは共通認識だろう。  当初と比べればずいぶんと打ち解けはしたけれど、それこそ、晃大と話しているときと、高校時代の先輩と話しているときでは、結月の態度は大違いだった。本気で慕っている相手には、結月はああも素直でしおらしくなるのだ。  ひとまずテニスの話はそこで切り上げて、適当に雑談しながら食事を終えたあと――。 「晃大、このあと、アニメの続き……」  たじたじと、結月が切り出した。 「ああ、十話くらいからだっけ? 面白いとこで止まってたよな」  今日はバイトもないし、ゆっくり続きを見れそうだ。 「……あ、でも」  ほどもなく、晃大は思い出したような声を発した。  ふっと不安げな表情を浮かべた結月の目を見つめて、諭すような口調で言う。 「その前に、部屋の片付けだな。また見事に散らかしてただろ。手伝ってやるから、そっちが先」 「……むぅ」  不服気な声とともに、白く柔らかそうなほっぺがぷっくりと膨らむ。  無自覚でやっているのだろうが、あざと可愛い。あの大島とかいう男が、やや不自然なくらい親しい距離感で結月と接し、可愛がっていた理由がわかるような気がしてしまう。  片付けが終わったら絶対にアニメだぞと念を押してくる結月に、わかったわかったと苦笑しながら食器を片し、二人揃って食堂を出た。  エレベーターへと続く広い廊下を歩いている最中、ふと、ポケットに入れていた晃大のスマホの着信が鳴る。どうせ大した連絡じゃないだろうと、八割型スルーするつもりで目を向けた画面には、しかし、意外な人物の名が表示されていて足が止まった。

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