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「エヴァン……?」
そっと、細い手首に触れる。逆らうように力を込め、エヴァンは押しつけた腕を離そうとしなかった。
――いやこれ、絶対泣いてんじゃん……。
しかも、見た感じ気持ちよくてとかではなさそうだ。
「ごめんエヴァン……痛かった?」
エヴァンは目元を隠したまま、小さく首を横に振る。事実、晃大も注意を払って事に及んだつもりだが、そのような素振りは見受けられなかった。
なんにせよ、セックスで相手を泣かせるなんて気まずいにもほどがある。同意の上とはいえ、相手に苦痛を強いるようなことはあってはならないだろう。
「とりま抜くけど、中、大丈夫そ? もうちょい落ち着いてからがい?」
エヴァンはイったあとの余韻が尾を引くタイプだから、軽率に抜けば余計に刺激してしまいかねない。
確認に、エヴァンの口元がかすかに動いた。
「い、やだ……」
「ん、なにがやだ?」
「いやだ……っ」
子どものようにそれだけを繰り返し、エヴァンはきゅっと唇を引き結んだ。
「……」
晃大はもう、『なにが』とは訊かなかった。訊いてもおそらく、エヴァンは答えない。否、答えられないのだろう。晃大が思っていたよりずっと、今のエヴァンは不安定らしい。
「じゃあ、もう少しだけこのまま。……それは、いやじゃない?」
押し当てられていた腕から力が抜け、ようやく見ることができたエヴァンの目元は透明な雫で濡れていた。
かすかな痛みが胸に走る。けれども、その涙のわけを問おうとは思わない。
代わりに、優しいキスをする。深く、体を繋げたまま。
「落ち着くまで、こうしてるから」
そっと、エヴァンの髪を撫でる。エヴァンはなにも言わず、目を瞑って胸を上下させている。
帰ったら、結月になんと言い訳をしよう。あんな電話のあとだ。事後であるということは、空気でバレるだろう。
いやしかし、バレたからなんだというのだ。晃大と結月は、単なるルームメイト。それ以上でもなければ、それ以下でもない。
前のルームメイトにしたって、晃大が性に奔放で、同じ寮に住む年下の男と寝ていることは知っていた。そのうえで無難に接してくれてはいたものの、避けられたら避けられたで、それでも一向に構わないというスタンスで晃大は日々過ごしていた。
なら、結月にだってそれでいいのではないだろうか。仮にちょっとやそっと帰宅が遅れてエヴァンとヤッてきたことがバレようとも、そんなのはどうだっていい。どうだっていい、はずだけれど――。
「……」
腕の中、自分ではない誰かを想って涙するエヴァンを慰めながら、ふと、晃大の心にもいつにない迷いが芽生えていた。
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