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 あの日、エヴァンは結局、晃大の腕に抱かれまま泣き疲れたように眠ってしまった。  そうっと挿入を解くと短い喘ぎ声が漏れ、エヴァンはまるで幼い子どものように手足を丸めた。ひどく寒そうな印象を覚え、晃大はベッドの隅で皺くちゃになった布団を手繰り寄せ、かすかに上下する肩へと掛けてやった。  そのときだった。ふと、エヴァンの口から意外な人物の名を聞いた。 (さくみ……)  以前、体を重ねた際にも口にしていた。素朴で柔らかな雰囲気のその名は、一度だけ顔を合わせた際に受けた本人の第一印象とよくマッチしていたため、記憶の片隅に残っていた。  呟いたエヴァンの頬には、一筋の涙。自分とエヴァンの関係が、そろそろ潮時であることを悟った。  朔実は、エヴァンのルーメメイトだ。長居すれば修羅場になりかねない。財布から取り出した万札を枕の下に忍ばせ、晃大は静かにその場を後にした。  追って、金の置き場所に加え、またなにかあれば連絡するようにと綴ったチャットを送ったけれど、返ってきたのは『わかった』という短い一文だけ。あれから一週間が経つけれど、エヴァンからの連絡はない。  もとより、自分は剱崎の下位互換だ。そして今、エヴァンにはその剱崎よりも強く想う相手がいるというのだから、晃大の出る幕はないだろう。  ただ、なんとなく……その恋は、エヴァンにとってあまりにもしんどいものになるような気がしてならなかった。  自分たちのような、好きじゃない相手とでも平気で寝られる人間が、今さら一人の人間に対し一途な想いを寄せたところで報われるとは思えない。相手が優しい人間であればあるほど、傷つき、傷つけ合うだけの二人になりそうだ。  無論、晃大には関係のないことである。けれども自分と同類だと思っていたエヴァンが、色恋云々であれだけ滅入っていることを思うとやや複雑ではあった。  そしてまた、近ごろ様子がおかしい人間といえば、ここにも一人……。 「おい、結月」  呼びかけに、今しがた風呂から戻ってきたばかりの結月が、はっと肩を揺らして固まった。 「……な、なんだ」  ぎこちない返事とともに、すっと視線を逸らされる。 「なんだって……見りゃわかんだろ。部屋、またヤバいことなってんじゃん。そろそろ一緒に片付けるか?」  最後に一緒に片付けをしたのは、もう十日以上前だったか。エヴァンから電話があった日に片付ける予定だったのがお流れになって以降、部屋は散らかる一方でとんでもないことになっていた。 「……あー、うん。でも俺、今日はもう眠たいから。……今度、一人でやっとく」 「一人で、って……」  それができるなら、そもそもこんな惨状にはなっていないだろう。晃大も晃大で、こうなる以前に何度も声をかけようと試みたのだが、ここのところ結月が肌身離さずヘッドホンをつけているせいで、切り出そうにも切り出せなかったのだ。  なんだかんだずっと食事のタイミングも合わず、隙を見てやっと声をかけられたというのに、ここではぐらかされたのでは埒が明かない。

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