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「まあ、仮に童貞じゃなかったとしても、そういうのに潔癖な人っていますしね。付き合ってもないのにふしだら! みたいな」
「ああ……」
確かに、そういう考えの人もいることにはいる。というか多分、今の人間社会においてはそっちのほうがまともな感覚だろう。
一部の優秀なオスから遺伝子のみ採取し、子育てはメスだけで成し遂げる多くの生物とは違い、人間は、たとえ遺伝子的に劣ったオスとでも一対一のパートナーを築かなければ繁殖が困難な社会制度に仕組まれている。
本来あぶれるはずだったオスにとっては、ありがたいことこの上ないだろう。自然の摂理とは乖離しているため、すでに崩壊の危機に晒されているような気はしなくもないが……。
「一つ言えるとすれば、そのチン毛散らしくんと御子柴先輩は相容れぬ二人だった、ってことっすよ。そういうの、無理に関係を続けようとしてもストレス溜まるだけだし、相手がその感じなら、こっちも下手に関わらないのが一番っす」
はっと、晃大は目を瞬いた。
妙に既視感のある言葉。それは、自分がエヴァンと、エヴァンが片思いしているであろう相手に対し抱いた感想と同じだった。
しかしながら、晃大は言うまでもなく、そういう意味で結月のことを気にしているわけではない。ただそこを差し置いたとしても、はたして自分と結月は、そこまで相容れないタイプの人間だっただろうか。
付き合っていくうちに合わない部分が見えてきて、だんだんと疎遠になる関係はある。それでいうとむしろ、晃大は結月と話してみる前より、後のほうが親しみを感じていたのだが。
だからこの場合、ただ相性が悪かったというよりかは、晃大が一方的に突き放されたと考えるのが妥当だろう。晃大は結月が童貞だろうが、性に潔癖なタイプであろうがなんとも思わないが、結月のほうはそうじゃなかったということだ。
とはいえ、ここで結月を責めるのはお門違いだ。晃大にしろ、日頃つるんでいる連中はもれなく自分と似たノリの軽い男ばかりだし、見るからに清純そうな女の子からの誘いは一貫して断るようにしている。そして今回はたまたま、その構図が逆転したというだけの話だ。自分の生き方を顧みるに、文句など言えるはずもない。
「あ、そうだ。話変わりますけど、今月末、店長の奢りで飲み会開くとか言ってたじゃないっすか。御子柴先輩、参加します?」
「あー、まあ、空いてたら。今んとこ予定ないけど」
「ええー、そこは空けててくださいよ。御子柴先輩の有無で、女子の参加率大幅に変わるんすから」
「有無って」
馬鹿のくせに難しい言葉使うなよと、からかうように言ってバッグを肩に提げる。ひどいっすと反抗する魁斗の頭をぽんぽんと叩いて、じゃあなとその場を後にした。
夜九時からシフトに入って、今はもう空が明るい。早朝五時。学生や社会人の大半は眠っている時間だろう。
昨日は昼間から連れとボウリングに出かけて、その足で直接バイトに訪れた。寮にはもう何時間も帰っていない。
そういえば昨日、結月は先輩と会うと言っていたはずだが、会ってなにをしたのだろう。食事? カラオケ? ゲームセンターとか、映画館の可能性もあるか。それとも、まさかとは思うが……。
――テニス、とか……?
いやいや、さすがにそれはないだろう。テニスなら、先約は晃大のほうだった。同じ場所に行くのに、相手だけ別の人間に変えるなんてことはないと思いたい。
――ま、空いてたらでいいっつったのは俺だけど。
ちゃんと空けとくと言っていたのは、結月のほうである。
とはいえ、部活時代の先輩なら、一緒にテニスに行っていたって別におかしなことではないような気もする。というかむしろ、その説が一番濃厚なような気さえしてきた。
「……はぁ」
ふと冷静になって、くだらないことにいつまでもこだわっている自分にため息が漏れた。
たかがルームメイト。いっとき、ほんの少し気が合うかもと思ったけれど、勘違いだった。ただ、それだけの話。
それだけの話なのに、どうしてこんなに胸がざわついているのだろう。
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