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――朔実って……。
エヴァンのルームメイトだ。そして恐らく、エヴァンの片思いの相手でもある。
「そ。あいつ、ここんとこずっと顔色悪かったし。俺がこの寮すすめたせいかと思ったら、正直、結構キツかった」
たしか、朔実は二年生からこの寮に越してきたのだとエヴァンが言っていたはずだ。新入生以外の入寮なんて珍しいとは思っていたが、すでにこの寮に住んでいる知り合いづての紹介ということなら納得がいった。
さておき、顔色が悪かった、とは一体なんのことを言っているのだろう。この寮での生活と、朔実の体調不良に、なにか関係があるのだろうか。
思ったとき、じわりと嫌な感覚が込み上げた。
「別に、大誠のせいじゃないでしょ。朔実、わりとはっきり『エヴァンとルームメイト解消したいわけじゃない』って言い切ってたし」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「てか、むしろ朔実はどうして今になって唐突に相部屋解消を決心したんだろう。つい二、三日前に話したときは、そんな素振りなかったくない?」
「それは思った。なにせ、あの翌日にはもう剱崎さんと部屋変わることまで決定してたわけだろ? さすがに急すぎるっつーか」
気づけば、晃大は聞き耳を立てて二人の会話を追っていた。
エヴァンと朔実が相部屋解消? 剱崎さんと入れ変わり?
なんだか、知らない間にすごいことになっている。
「もしかして、また現場に鉢合わせちゃったとか。俺らの部屋から帰ったあととかさ」
「可能性大だな。修羅場すぎるけど」
なんとなく、話が読めてきた。
ようは、エヴァンの生活態度に愛想を尽かした朔実が、とうとう相部屋解消を決意し、実行したということらしい。そして恐らく、その決定的な原因となったのは、帰宅時に図らずして情事を目撃してしまったこと。朔実がルームメイトを降りるなら代わりは自分がと、たしかに剱崎なら言いそうだ。
他人事ながら、晃大はなんだか複雑な気分になった。
エヴァンが朔実に好意を寄せていたのは明白だ。そのうえで、寂しさを誤魔化すように晃大を呼びつけ、この腕に抱かれながら静かに涙するあの姿を思い出すと居た堪れない。剱崎と行為に及んでいたのだって、きっと、朔実への思い転じてだろう。
……ふと、脳裏に浮かんだ素朴で人畜無害そうな男の顔に、かすかな苛立ちを覚えた。
お門違いなのは百も承知。しかし、あの男にはわからなかったのだろうか。エヴァンが一体、どんな気持ちでほかの男と体を重ねていたのか。影でどんなふうに泣いて、どんなふうに自分の名を呼んでいたのか。
人は往々にして、自分とは違った考えを持つ人間の性質を、過剰に悪い方向に捉える節がある。朔実の目には、エヴァンが金と引き換えに男と寝まくる頭のおかしいビッチにでも映ったのかもしれない。そんな男に好意を寄せられるなんてと、憤りさえ覚えたのかもしれない。
けれど少なくとも、晃大が知っているエヴァンはそこまで逸脱した人間ではない。性に関してやや奔放なところはあるものの、普通の人間がされて嫌なことはエヴァンも嫌だし、されて嬉しいことはエヴァンだって嬉しい。失恋すれば傷つくし、好きな人を想って涙を流すことだってある――。
未だかつて、一度も本気で恋をしたことがない晃大よりずっとまともだ。
だけれど朔実の目には、エヴァンはそうは映らなかった。仕方がないのかもしれない。晃大もはじめから、その恋は実らないだろうと半ば諦観していた。
互いにどれだけ歩み寄ろうとも、決定的な部分でどうしても分かり合うことのできない人間というのはいる。そんな相手に恋をしてしまったエヴァンには同情するが、実際、朔実と剱崎のどちらが彼のルームメイト――ひいては恋人に適しているかと問われれば、答えは満場一致で剱崎になるだろう。
相容れない、二人だった。その事実をしかと認識したと同時、晃大の胸の中にも、なんとも言えない遣る瀬無さが浮かび上がる。
「あー、でも、結月の嫌われ術は無駄に終わっちゃったな」
ふと、晃大の思考を掠め取るように飛び出した人物の名に、ちんこを洗う手が止まった。
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