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――嫌われ術……?
一体、なんの話だろう。盗み聞きなんて趣味が悪いが、こう次から次へと知り合いの名を挙げられると、嫌でも意識が向いてしまう。
仕切りを挟んですぐ向かいに晃大が座っていることに気づいていないのだろうが、お喋りな二人にも責任はある。
「いや、さすがにあれは実行しないだろ。部屋にチン毛撒き散らすとか、どこの妖怪だよ」
「妖怪しんど。でもあれ、結月はマジで言ってるからね。リアルに、それで二回ルームメイト追い出してるし」
「なんだっけ、『好かれて困る相手には、それ相応の態度を取る。それが責任感ある行動だ』的なやつ。やってること妖怪なのに、言ってることめっちゃ正論なのおもしれーよな」
「だから妖怪やめて。……って言っても、ぶっちゃけあそこで結月を呼んだのは面白半分だったんだけど。いくら嫌われるためでも、朔実がチン毛撒き散らすとことか想像つかないし。あれは結月にしかできない技だよ」
「確かに。郁人に至っては、そこ、ツルツルだしな」
「っ、大誠っ、どこ見て……っ」
バシャンと桶に溜まったお湯をぶち撒けるような音に重なって、うおっという男の声がする。
「いいじゃん、パイパン。蒸れなそうだし。俺も脱毛しよっかなー」
「っ、変態! ノンデリ! やっぱ、今週のゴミ当番は大誠がしろよ!」
「はーぁ? なんでだよ。上がったらゲームで決めるっつってたじゃん」
「うるさい! もうこっち見んな!」
「おうおう、そう言われると逆に見たくな――」
二度目のバシャンという音がする。騒がしい空気に紛れ、晃大はさっと全身を流してその場を去った。
更衣室、ロッカーにしまっていた服に着替えながら、さきほど耳にした会話がぐるぐると頭の中を巡っている。
好かれて困る相手には、それ相応の態度を取る。それが、責任感ある行動――。
寮での人間関係に疎い晃大は、結月のルームメイトがすでに二度も変わっていることを知らなかった。ましてやその理由が、部屋中に陰毛を振り撒かれているからだったなんてどこの誰が想像できただろう。
……いや、さすがに聞き間違いか。だって、いくらなんでも意味不明すぎる。好かれないためだか嫌われるためだか知らないが、それならもっとほかに手段があるだろう。どういう思考回路をしていたら、部屋にチン毛を撒き散らしてやろうなどという発想に至るのだ。
というかそもそも、結月がだらしないのは出会った当初からであり、今に始まったことではない。初めて部屋に足を踏み入れたその瞬間から、もうすでにところどころチン毛が散らばっていた。
ここ最近になって、そういうことをされ始めたのならわかる。いや、全然理解には苦しむのだけれど、今現在、晃大が結月に距離を置かれているのは事実だ。
しかし、出会って間もなく、ろくな面識さえない時点からそんな嫌がらせじみた行為を受けていただなんてにわかには信じ難い。そんな馬鹿げた話があるだろうか。
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