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(そんなに、嫌なら……おまえが出てけばいいじゃん……)  ふと、いつの日かの言葉が頭を過り、ボクサー越しにチンポジを整えていた手が止まった。  あれはたしか、晃大が初めて結月のだらしなさを厳しめに注意したとき。結月は不満気に、そんなことを言ってのけたのだった。あのときはあまりの理不尽さに、珍しくカチンと来てしまったのを覚えている。  しかし、その翌朝には協力してUSBを見つけ出し、結月も反省している様子だったので、晃大も、まあいっかという気持ちになっていた。それ以降ちょくちょくと一緒に片付けをするようになって、テニスにも行って、時間が合えば一緒に食事をしたり、アニメを見たり――。それも全て、結月にとっては『嫌われたい相手』と『嫌々』過ごしていた時間だったというのだろうか。 「……なんだよ、それ」  ちんこを掴んでいた手が、力なく垂れ下がる。濡れた髪の先からぽたりと雫が滴り落ち、それがどうしてか、あの日見たエヴァンの涙と重なった。  どうかしている。誰がとかそんなことを考えるのも嫌で、荒っぽい動作で着替えを済ませ、バタンとロッカーの戸を閉じた。  籐編みのスツールに腰掛け、備え付けのドライヤーのスイッチをオンにする。ガシガシと髪を乾かすかたわら、頭の中はやはり、さっき聞いたいくつもの言葉で埋め尽くされていた。  チン毛。嫌われ術。好かれて困る相手。チン毛。責任感ある行動。ルームメイトを追い出す。チン毛。妖怪。パイパン。チン毛……。  ダメだ、わからない。というか、こんなことを考えている自分がおかしいんじゃないかという気にさえなってくる。  なんださっきの会話は。夢か。幻か。  いいや、確かに言っていた。結月は嫌われるためにチン毛を撒き散らしているのだと。それですでに、二人のルームメイトを部屋から追い出したのだと。  現に二十分ほど前、部屋に着替えを取りに行った際にも、タンスの前にチン毛が落ちていた。となるとまさか、次のターゲットは自分……? 「……」  カチャリと、ドライヤーのスイッチをオフにする。それと同時、晃大の中にあった混乱もさっと静まった。  脱衣所を後にし、ロビーへと続く廊下をまっすぐと歩いてゆく。エレベーターに乗り込んで、微細な振動に揺られているその最中も、晃大の態度は落ち着いていた。  チンと音が鳴って、扉が開く。左に曲がって、二つ目の部屋。一つ息をついて、静かにドアノブを捻る。  出迎えてくれたのは、あちこちに散らかった奇数の靴。掻き分けてスリッパを抜ぎ、足を踏み入れた廊下はゴミの山。  定期的に一緒に片付けているときですら、三日後にはもうこれに近い状態だった。どうして三日しか経っていないのに、三日分よりも多い服が脱ぎ散らかしてあるのか。もしや自分と一緒に片付けがしたくてわざと散らかしてるのかと疑った瞬間もあったくらいだが、今となっては、その『わざと』も違う意味だった可能性が高い。  沸々と沸き上がる言葉にはできない感情と、こういうときこそ冷静であれという二十年かけて培った理性。  ちらりと右側に視線を向けると、いつもならヘッドホンを付けてスマホをいじっている結月が、なにやら手に持った一枚の紙切れをじっと見つめていた。

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