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「おい、結月」
静かにそばまで歩み寄り、声をかけると、ビクリと結月の肩が跳ねる。今の今まで、晃大が部屋に戻ったことに気づいていなかったらしい。
「な、なんだいきなり……っ! びっくりしたじゃないか!」
そう言って、手に持っていたなにかを慌てて伏せる。
その伏せられた紙切れの背面をしばし無言で眺めた後、晃大は低い声を発した。
「部屋、いつになったら片付けんの?」
ピクリと、また結月の肩が揺れる。
「な、なんだよ出し抜けに……」
「出し抜けじゃないだろ。もう何日この状態なんだよ」
相手は年下。なるべく、キツくならないように。みっともなく、感情を面に出さないように。
言い聞かせているのに、自然と語気が強くなる。そんな自分に腹が立つ。
「し、仕方ないだろ……! ここんとこ、忙しかったんだから……」
「忙しいって? 写真眺めてる暇はあるのにか」
すっと、伏せられた紙切れへと目を向けた。それが単なる紙切れでないことは、聞かずともわかっていた。
「また会うの」
一変した問いに、結月の表情が揺らぐ。
「な、なんのことだ」
「大島とかいう男。あいつと話してるときのおまえ、俺と話してるときとは別人みたいに素直だったよな。……嫌われたくない相手には、あんなふうになるんだ?」
「っ、なに言って……っ」
結月が手に持っている写真は、過去に一度、目にしたことがあった。
一緒にUSBを探し出した日のことだ。焦って大学に向かう結月を見送った後、さんざん引っ掻き回して荒れた部屋の床に、それははらりと落ちていた。
折れ目がついては困るだろうと思い、拾い上げたその写真。視界に入った被写体に、晃大の目は釘付けとなった。
そこに写っていたのは、高校指定のものらしきユニフォームを身に纏い、肩を寄せ合う結月と知らない男の姿だった。
それだけなら、なんてことない青春の一コマ。にもかかわらずその姿がやけに新鮮に映ったのは、そうして肩を寄せ合って笑う結月が、およそ晃大の知る結月の人物像からは想像もつかないほどに柔らかで、自然な表情を浮かべていたからだ。
後に、写真に写るもう一人の男の正体が大島だったということが判明した。あの時点では名前も知らない、会ったこともない赤の他人だったが、テニスコートで偶然鉢合わせた際、晃大はすぐにその事実を察した。
久しぶりに再会した先輩に対し、結月は写真ほど砕けた表情を見せてはいなかった。だからといって、普段、晃大に見せているようなツンツンとした態度を取るわけでもなく、二人してなにかを意識し合っているかのような、親密な空気が流れていた。
今、自分を見つめているのは、困惑と、少しの怯えが混じった瞳。大島と肩を寄せて笑っていたあの目と比較して、思わず舌打ちしそうになった。そんなことをすれば、なおさら結月の表情を曇らせることになるとわかっているから、感情が溢れる寸前で、晃大はふいと顔を背ける。
「っ、晃大……っ」
「俺、もうおまえとは関わんねぇから」
精一杯抑えて吐き出した言葉に、背後で呆けた声がする。
「……へ?」
「片付けとか、テニスとか、食事とか――嫌われてるとも知らず、一方的に付き合わせて悪かったな。わざわざヘッドホンなんか付けなくても、もう前みたいに話しかけたりしないから安心しろよ」
一体なぜ、自分が謝ることになっているのか。どう考えても、悪いのは部屋にチン毛を撒き散らした結月のほうだろうに。
しかし、今さっき自分が結月にぶつけた言葉の中には、なにかそれとは別の八つ当たりじみた感情まで含まれているような気がして、こうでも言わなければ示しがつかなかった。
重い沈黙が落ちる。最後まで晃大の一人芝居のようで、握り締めた拳にぐっと力がこもった。
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