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「晃大」  バイトを終え、裏口から店を出てまもなくそんな声がかかる。  足を止め、視線を向けると、そこには想定通りの人物が立っていた。 「鈴羽……」  ゆるふわウェーブの黒髪に、白い肌。少し垂れた眉毛と目尻が甘い雰囲気を匂わせる彼女は、一時間ほど前に店で男に絡まれていた女性客だ。  ああいうのをきっかけに出待ちして礼を言われることはしばしばだが、彼女に限っては、恐らくそれだけが理由でここにいるわけではないのだろうと察しがついた。 「ごめんね、突然バイト先にまで押しかけちゃって……。さっきはありがとう。晃大が来てくれて助かった」 「全然。……それより、腕大丈夫だった? 掴まれてたから、気になってた」  白いブラウスから覗く、細い腕へと視線を向ける。ブラウスと同じくらい白い手が、誤魔化すようにそこを擦った。 「大丈夫。ちょっとびっくりしたけど、すぐ晃大が助けに来てくれたし」  向けられた笑顔に、晃大はふっと口を噤んだ。 「……こういうとこ、慣れてない子が来ると危ないよ。今日はどうしてここに?」  尋ねると、ふたたび一瞬の間が生まれる。  {伊東|いとう}鈴羽。彼女は、晃大の高校時代の同級生だ。高二の時に転校して以降、しばらくは連絡も取っていなかったが、当時は四人グループでよく一緒にいた。  再開したのは、十日ほど前。読モの子がいるからと誘われた飲み会で、約四年ぶりに顔を合わせることになった。 「最近忙しいって言ってたのにごめんね。……でも、どうしても晃大と会って話がしたくて」  飲み会以降、鈴羽からは二回食事の誘いがあって、その二回とも晃大は断りのメッセージを返していた。バイト先については飲み会のときにぽろっと口にしたものの、結果として、さきほどのような事態を招いてしまったのかと思うと責任を感じずにはいられない。 「今って時間大丈夫……? あれだったら、また出直すけど……」 「いや、大丈夫。てか、こんな遅い時間まで待たせてごめん。とりまどっか店入ろう。立ちっぱで疲れたっしょ」  言うと、鈴羽は安心したように表情を和らげて「うん」と頷いた。並んで夜道を歩き、すぐそこにあったダイニングバーに入店する。  鈴羽は酒が苦手らしく、ノンアルのカクテルを頼んでいるのを見て、晃大も同じものをオーダーした。 「晃大、お酒得意そうなのに」 「ああ、まあ。苦手ではないけど」  女の子とサシで飲むと、大抵そういう流れになる。だからこそのチョイスだった。 「……なんか、ちょっと安心した」  ふっと肩の力を抜いて微笑んだ鈴羽に、晃大はことりと首を傾げる。 「安心?」 「晃大、結構雰囲気変わってたから。お酒とか、ガブガブ飲むのかなって」 「ガブガブって」  肩を揺らし、晃大は苦笑する。とことん、自分が真面目とは懸け離れた印象なのだということを痛感させられる。別に、真面目になりたいわけではないのだけれど。 「鈴羽は今、モデルだろ。会ったときビックリした。マジすごいじゃん」  昌暉が言う、晃大に会いたがっている読モの子とは、ずばり鈴羽のことだった。驚いたが、鈴羽は高校時代から美人でスタイルもよく、街を歩いていると揃ってスカウトされることも少なくなかった。 「そんな。モデルっていっても、読モだから。ランウェイとか歩くタイプじゃないよ」 「それでもすごいって。なりたくてなれるようなものでもないし」  お世辞抜きで、鈴羽は晃大がこれまで見てきた女の子の中でも飛び抜けて容姿端麗だ。末広の二重に長い睫毛。すっと通った鼻筋に、ぽってりとした唇。正面から見ると童顔寄りだが、横から見ると圧倒的美人という、独特な魅力を放っている。  照れ臭そうに頬を赤らめる鈴羽を無言で見つめ、ふと、晃大は視線を伏せた。

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