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「……鈴羽が元気そうでよかった」  鈴羽が転校して以降、一度も連絡を寄越さなかった自分が言えたことではないけれど。久しぶりに再会し、彼女がモデルのような表立った活動をしていることに驚くと同時、心底安心したのも事実だった。 「うん……。実は、転校したあともしばらくは学校に行けてなかったんだけど。美香(みか)とはずっと連絡取ってて、あんなやつのせいであんたの人生潰されたらもったいないよって――自信持って生きなよって、励ましてもらって」  美香は、当時仲が良かったメンバーの一人だ。明るく、気さくなタイプの女子だった。  そして、ここで言う『あんなやつ』とは間違いなく――。 (頼む晃大! 俺、鈴羽のことマジだから! あいつと俺が上手くいくよう、協力してくれ!)  美香、鈴羽に並ぶイツメンの一人だった和真(かずま)にそう手を合わせて頼み込まれたのは、高二の夏のことだった。  顔は普通だがノリがよく、グループではムードメーカーのようなポジション。そんな和真が鈴羽に好意を寄せているだろうことは、晃大も薄々勘付いていた。  正直、脈はないと思った。鈴羽が和真を男友達としか見ていないのは傍目にも明白だったし、いくら周りが協力したところで、人の恋愛感情なんて操れるものではない。仮にそんなことができたとしたら、それは半ば、相手を騙しているも同然だ。  初対面の相手と話すきっかけを作るだとか、両片思いとわかっていて背中を押すとかならまだしも、その時点ですでに、四人での付き合いは一年と数ヶ月にも渡っていた。今さらああだこうだと計らったところで、下手をすれば押し付けにもなりかねない。  ……とはいえ。その当時、和真は晃大が一番親しくしていた男友達だった。  両手を合わせ、頭を下げて必死に頼み込んでくるその姿からは鈴羽に対する本気度が伺える。なにより、ここできっぱりと断るのも悪い気がして、晃大は仲介役を引き受けることにした。  その判断が間違いだったと気づいたのは、それからおよそ一ヶ月が経った頃だ。 (私と和真くんのこと、あんまり二人きりにしてほしくなくて……)  薄暗いカラオケの一室。美香と和真が空のグラスを手に席を立ったのを見計らって、鈴羽はひどく思い詰めたように言ったのだった。  その頃、晃大は事あるごとに和真と鈴羽がペアになるよう気を配っていたのだが、それは鈴羽にも伝わっていたらしい。心当たりがあるだけに、晃大は返答に詰まった。  ほどもなく美香と和真が部屋に戻ってきて、話は曖昧なまま幕を閉じた。しかしその日をきっかけに、晃大の置かれた状況は完全なる板挟みとなった。  日常の至る所で、和真からは協力してくれと言わんばかりの圧を出され、鈴羽からは助けを求めるような目を向けられる。一つしかない(おもり)を右へ左へと移動させ、釣り合うはずもない天秤をひたすら調整させられているかのような理不尽さ。  右、左。右、左。いつまでもそんなことを繰り返しているうちに、とうとう事件は起きてしまった。

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