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驚きはなかった。その当時、晃大は鈴羽から向けられる好意に気がついていた。そしてまた晃大自身も、鈴羽のことを欠片もそういう意味で意識していなかったと言えば嘘になる。
和真さえいなければ、あるいは自分たちは、友達を越えた関係になっていたかもしれない。少なくとも晃大のほうは、告白されれば断りはしなかったはずだ。
その当時はワンナイトなんて言葉とも無縁の生き方をしていたし、だとすれば、未だに交際が続いていた可能性もある。そのときはきっと、晃大も本気で鈴羽を好きになっていただろう。
「和真の件も、もっと早くに私がグループから抜けてれば済む話だったのに……。晃大が板挟みになってるのわかってて、それができなかった。……晃大と、一緒にいたかったから」
呟く声には後悔が滲んでいて、晃大はなにも言えなかった。
自分みたいな人間が、下手に間を取り持とうとしたから。友情も恋愛も、何一つまともな人間関係など築けないくせに。中途半端に深入りして、馬鹿みたいに気を揉んで。そして起こったのが、あの事件だ。
二週間の自宅謹慎を告げられ、割と真剣にやっていた部活のレギュラーからも外され、なんだかもう、全てが嫌になった。
どれだけ神経を擦り減らして立ち回ろうと、合わないものは合わないし、崩れるときは一気に崩れる。だったら始めから、そのとき、その場に応じたノリの合う人間とだけ、必要最低限に関わればいい。不真面目だろうがなんだろうが、もう二度と、あんなふうに誰かの傷ついた顔を見たくない――。
「晃大って、根がすっごく真面目でしょ」
「え?」
思いも寄らないことを言われ、晃大は目を瞬いた。
「昔からそう。飄々と生きてるみたいに見えて、ほんとはすごくよく周りを見てて……こう言ったら相手が傷つくだろうなとか、空気を悪くするだろうなとか、そういうことは絶対口にしない。そのうえで、それは違うだろって思ったことに対しては、毅然として立ち向かえる強さもある」
自分のことをそんなできた人間だと思ったことは一度もなく、晃大は反応に困った。
そんな晃大を真っ直ぐと見つめて、鈴羽はふっと表情を和らげる。
「今さらかもしれないけど、あのときは助けてくれてありがとう。なにも言わずに転校しちゃって、ごめんね」
「……」
つうっと、手つかずで放置されていたグラスの表面に一筋の結露が伝った。
ありがとう。ごめんね。そう言って微笑む、懐かしい旧友の姿。
もうずっと、思い出せずにいた。鈴羽が、そんなふうに笑うことを。
柔らかく、それでいて芯のある眼差し。晃大が初めて、心を惹かれた人。
未熟だった自分には、手が届かなかった。なにが大事で、なにを守るべきなのか。すぐそこにあったはずの正解を、導き出すことができなかった。
時間とともに、変わっていくこと。変わらないこと。
目の前にいるのは、確かに、晃大がかつて恋した人だ。傷つき、それでも決して負けることなく立ち上がった、強く、勇敢な一人の女性だ。
あれからもう、ずいぶんと長い時が経っていたことを知った。
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