52 / 75

6-7

 鈴羽が迎えに来た彼氏の車に乗り込むところまでを見届けて、寮に帰り着いたのは午前二時過ぎだった。タクシー代は出すからと申し出たところ彼氏の存在を明かされ、若干の驚きはあったものの、鈴羽がすでに新しい恋に進んでいるという事実には素直に安心した。  しかしその一方で、あれから約四年、常に楽な道ばかりを選び、何一つまともな人間関係を築いてこなかった自分を振り返り、少し情けなくなったのも事実だ。  その時々、ノリが合った人間とだけ時間を共有して、合わなくなればどちらからともなくフェードアウトする。身軽で、気楽で、ほとんど手ぶらと言っても過言ではない。  それでいいと思っていた。それが、いいと思っていた。  でもだったら。あの日、あの瞬間、エヴァンはどうして涙を流していたのだろう。いつも通りセックスをして、お金を稼いで、それでいいとは思えなくなってしまったのだろう。  エレベーターを降り、左に曲がる。『402』と記された表札をちらと一瞥し、バッグから取り出したルームキーで部屋を解錠した。  ゆっくりとドアノブを捻り、玄関の明かりを灯す。散らかった靴が、一つ、二つ、三つ……。廊下にも、服やらゴミやらが点々と落ちている。  以前より少し、マシになっただろうか。いやしかし、散らかっていることに変わりはない。  極力物音を立てないよう部屋の奥へと足を進め、晃大はクローゼットから着替えを取り出した。そのままシャワールームへと向かうべく身を翻し、ふと、足が止まる。 「……」  布団にくるまって眠る、見た目だけはこれでもかというほど可愛いルームメイト。静かな寝息に合わせて、華奢な肩がかすかに上下している。  ルームメイトを解消したいなら、結月のほうから一条に伝えればいい。出ていくのは自分でも構わないからと、あの日、晃大はそう口にした。  しかし今のところ、結月との相部屋は変わらず続いている。一条に相談を持ちかけたうえで断られたのか、そもそも相談すらしていないのか、真相は定かではない。  というか、相談ってなんだ。部屋に陰毛を振り撒かれて困ってるんです、と晃大が苦情を訴えるのならまだしも、あろうことか陰毛を毟り撒き散らした本人が、どの面下げてルームメイトを追い出してくれなんて言えたものだろう。  ……いや、だから。結月にとっての問題は、そこではないのだろう。あれは、結月が晃大に嫌われるため――ひいては、晃大を部屋から追い出すために講じた策。つまり結月は、それを実行した時点ですでに、なにかしらの不満を晃大に抱いていたということだ。  不満、とは少し違うかもしれない。恐らく結月は、晃大のことを嫌悪している。いや、気持ち悪がっているのだ。  最後にエヴァンとセックスをした日を境に、あからさまに避けられるようになったのがそのなによりの証拠だろう。初めはそんなことで……と思いもしたが、そこはやはり、自分の感覚がズレていたのかもしれない。魁斗が言っていた通り、そういうことに対し快く思わない人間は少なからずいる。

ともだちにシェアしよう!