53 / 75
6-8
現にエヴァンだって、朔実を含めて計三回もルームメイトが変わっている。晃大の場合は自室に人を招いて行為に及んでいるわけではないけれど、たとえ場所がどこであろうが、そういうことをしているという事実自体が受け入れ難いものなのかもしれない。
相部屋になる前から、晃大とエヴァンの関係は噂程度に結月の耳にも入っていたはずだ。だとすれば、相部屋開始時点で仕組まれたように部屋が散らかっていたのにも納得がいく。
今はもう、結月とは一切口をきいていない。晃大自身が、以前にも増して遊び歩くようになったからだ。日付を跨いだ帰宅が当たり前になり、部屋で居合わせても結月は今のように眠っている。食堂の夕食を摂るために早めに寮に帰るなんて面倒なことも、もうやめた。大浴場にも、あれきり一度も足を運んでいない。
いっとき一緒に片付けをしたり、夕食を摂ったり、アニメを見たり――わざわざ予約まで取ってテニスに出かけたことまであるのが嘘のようだ。
青空の下、爽やかな風を受けながらラケットを振る。ガットにボールが触れるその一瞬、確かな重みを感じながら、パンッと爽快な音が響き渡る。一球、一球、気合を入れて打った球をしつこく打ち返されるのは癪だったが、それ以上に楽しかった。
あんなふうに本気でなにかと向き合い、熱くなれたのは高校以来だ。もしかすると自分は、知らず知らずのうちに、結月と過ごす時間にかつての高校時代を重ねていたのかもしれない。
あのとき、必死に守ろうとして、守れなかったもの。その結果、全てを放り出して、楽な道ばかりを選ぶようになってしまった自分。
あのころの自分なら、今の状況をどうしていただろう。どうしたいと思っただろう。
壊れるなら壊れてもいい。そんなふうに冷静に受け流すことが、果たしてできただろうか。
……わからない。今もそうだ。自分で自分がわからない。
自分はもう、他人との関わりでいちいち感情を左右されるような面倒臭い人間ではなくなったと思っていた。そんなふうに感情をコントロールできるようになった自分を、何事も冷静に受け流せるようになった自分を、『成長した』と思っている節すらあった。
でも、わからない。それは本当に、成長だったのだろうか。ただ、また同じ失敗を繰り返すのが怖くて、傷つくのが怖くて、自分の中にある感情から目を背けていただけではないのだろうか。
わからない。そんなの、わかりたくもない。けれど本当は、わかっているのだ。自分がまだ、大人になりきれていないことを。自分の思い描く『理想の大人』とは、こんな根無し草のように地に足の着かない人間ではないことを。
けれどやはり、わからないのだ。この胸のモヤモヤを、どうすれば解消できるのか。関係を繋ぎ止める以前に、晃大はすでに、一方的に結月に嫌われてしまっている。たとえ高校時代の自分でも、こうなればどうしようもなかった気がする。
どうしようもない――。そう、どうしようもないのだ。
結月は恐らく、生理的に受け付けないレベルで晃大を嫌っている。仮にもう二度とエヴァンとそういうことはしないと晃大が伝えたところで、その事実が覆ることはないはずだ。『生理的に無理』とは、人間関係において、そのくらい致命的なことである。
だったらもう、割り切るしかないだろう。たとえばそれが成長ではなく、消極的な防衛本能であったとしても。見て見ぬふりは、今となっては晃大の専売特許だ。
……でも、だからこそ信じられないのである。その四年もかけて培った防衛本能さえ、まともに機能しないことがあるなんて。それを認めると、自分にはもうなにも残らない。
虚しさと遣る瀬無さに、押し潰されてしまいそうだった。
ともだちにシェアしよう!

