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「え?」  振り返ると、息を切らしてこちらを見つめるタンクトップ男と目が合う。  涼しい顔をして走っていたが、相手も限界に近かったようだ。首筋まで汗が滴っている。 「すんません、タイミング見て話しかけようと思ってたんすけど……御子柴先輩、全然走るのやめないんで」 「……あー、えっと?」  要領を得ず、晃大は軽く眉を寄せた。  つまりはなんだ。この男は晃大に話しかけたいがために、こうもしつこく走り続けていたということか。 「マジ、あと一分でも走り続けてたら吐くところでした……。よかった、止まってくれて……」  息も切れ切れに男は言う。  いや別に、話があるなら途中で声をかけてくれればよかっただろう。邪魔するのが悪いと思ったにしても、一緒になって走り続ける意味がわからない。  ――しかもこいつ、俺よりちょっと速度上げようとしてたし……。  それを言うなら、先に仕掛けたのは晃大のほうではあるのだけれど。  さておき、そこまでして話さなければならない用件とはなんだったのか。失礼な話、こちらは相手の名前すらわからない。 「ああその、俺、速水(はやみ)大誠って言います。この寮の三階に住んでるんすけど……」  晃大が訝しんでいるのに気づいたらしく、男はしゃんと背筋を正して名を明かした。 「大誠?」  聞き覚えのある名だ。 「はい。んで、話っていうのは、先週の大浴場のことで……」  気まずげに口にされた単語を聞くなり、ぱっと記憶がリンクした。  大誠。そういえば、大浴場で噂話をしていた二人組のうち一人が、そんな名前だった気がする。  ――確か、パイパンじゃないほう……。  ルームメイトのパイパンを見ようとして、お湯をぶっかけられていたほうだ。こんな爽やか系イケメンだったとは驚きである。 「で、確認……って言ったらアレなんすけど、あんとき御子柴先輩って、大浴場にいました……よね?」 「あー……」  いたねと、ややあって晃大は肯定した。  なんだこいつ。つまりは晃大がいるとわかったうえで、あんな噂話をしていたということか。  不愉快さにすっと目を眇めた晃大を見て、大誠はふと、焦ったように首を横に振った。 「いや、いや、違うんす。なにも、御子柴先輩がいるってわかっててあんな話をしてたわけじゃなくて……。大浴場から出てくとこを見て、初めて気がついたっていうか……」  大誠は項に手を当てて、気まずげに晃大から視線を逸らす。 「いやその、いなかったら言っていいとかでもないとは思うんすけど……」  そこはどうでもいい。ただ、場所は選べよという話だ。 「なんていうか、これを機に、ちょっと弁明させてもらえないかなと思いまして……」 「弁明?」  問い返すと、大誠は真っ直ぐと目を見て「はい」と頷き返してきた。 「結月のことなんすけど……なんかあいつ、過去に男関係……? かなんかで、いろいろあったみたいで。男に対して、人一倍警戒心が強いんすよ」 「男関係……?」  繰り返した晃大に、大誠は無言で顎を引いた。 「だからその、部屋にチン――陰毛を撒き散らすとか、そういうのも、悪気があってやってるわけじゃないっていうか……。事実、俺も初めてあいつと会ったときはチンポ――」 「ちんぽ?」 「いや、陰茎ポ――」 「陰茎ぽ?」 「……チンポジ整えてからの握手みたいな、そんなんされましたし」  まさかの通過儀礼だった。

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