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「いやそりゃ、そんなんされたら誰だっていい気はしないと思うんすけど。でもマジで、一回打ち解けさえすれば、あいつ、そんな悪いやつでもないっていうか……むしろ、普通に面白いやつっていうか……」
たじたじと大誠は弁明する。言わんとすることは理解できた。
たしかに結月は面白いやつだ。初めこそなんてだらしないやつだと呆れたが、いざ雑談しながら片付けをするようになってからは、それさえも楽しみの一つになっていた。
しかし、今それを再認識したからといってなんになるのだ。この男がなにをどう解釈しているのかは知らないが、先に距離を置いてきたのは結月のほうである。
やや苛立ちのこもった眼差しで見返すこと数秒、ふいに、大誠がばっと長身を折り曲げた。
「すんませんした」
「……は?」
突然の出来事に、晃大はぽかんとして目を瞬く。
間もなく、斜め前方でレッグプレスをしていた寮生が動きを止めてこちらの様子を伺っていることに気づいて、これはまずいと思った。ただでさえ晃大は寮内で悪目立ちしている節があるというのに、ジムで後輩をいびっていたなんて噂が広まった日には体裁が悪すぎる。
「おい、なんだよ急に――」
「そんなつもりなかったとはいえ、結果的に御子柴先輩に対する陰口みたくなっちゃったこと、責任持って謝らせてください。ほんとにすいませんでした」
再度きっぱりと謝罪した男の後頭部を眺め、晃大は言葉を失った。
……なんだこれ。普通に気まずすぎるのだが。新手の嫌がらせかなにかなのか。
「それで、その……」
言いながら、大誠はおずおずと頭を上げる。
いや、おずおずするな。ちんこも金玉もガタイもデカい晃大は、常々他人に無駄な威圧感を与えないよう意識して生きているというのに。
「俺が言うのもなんなんですけど、結月のこと、あんま責めないでやってほしいっていうか……。なんかあいつ、最近、大学でも元気ないって郁人が心配してて……」
ああ、郁人っていうのは俺のルームメイトなんですけど――と、大誠は訊いてもいない補足を付け加える。パイパンのほうの男のことだ。
そんなことより……。
「元気ない? 結月が?」
咄嗟に、晃大は問い返した。一緒の部屋で生活していて、そんなことには欠片も気がつかなかった。生活、といっても、晃大は寝に帰っているだけなのだけれど。
「ちょうどあの大浴場のあとくらいかららしくて……もしかして、俺のせいだったりするのかな、と……。御子柴先輩、あのあと結月となんかありました……?」
「……」
なかったと言えば、嘘になる。けれど、初対面の男にぺらぺらと事情を打ち明けるのも違う気がして、晃大は口を噤んだ。
少しして、察したように大誠が肩を落とす。
「すんません。出過ぎたこと訊きました」
もう何度目の謝罪だ。こう繰り返し謝られると、一周回ってこちらが悪いことをしているような気分になってくる。
特に、相手が後輩ポジというのが手に負えない。変に真面目そうなのも、却ってタチが悪い。
「……けど、結月が悪いやつじゃないってのは本当なんで。そこだけは誤解しないでもらえると助かります」
断言する態度から、この男が相当人徳のあるタイプだということが容易に見て取れた。男女問わず、好かれるタイプの人間だ。
「え、っと……じゃあ、俺はこのへんで」
お先に失礼しますと、軽く会釈をして大誠は体の向きを変える。遠のいてゆく広い背中を眺めながら、晃大は今聞いた言葉の一つ一つを頭の中で反芻していた。
やがて、じわじわと込み上げてくる衝動に居ても立ってもいられなくなって、足早にその場を後にした。
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