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「あ」
呟く結月の声と前後して、ぱくりと人参を口に含む。
「人参、嫌いなんだろ?」
「う……」
テニスに行った日の帰り、二人で訪れた焼肉屋で出された人参を見て言っていたのだ。黙々と肉じゃがを食べながら、さり気なく皿の端っこに人参を避けているのを見て思い出した。
「おまえ、いい友達持ってんのな」
告げると、結月は要領を得ないように押し黙った。たしかに、今晃大が口にした内容だけでは、なんのことやらといったところだろう。
晃大はまた結月の皿から一つ人参を摘み取って、雑談のような口調で続けた。
「『嫌われ術』だっけ? 二週間くらい前、大浴場行ったときに偶然、大誠と郁人ってやつがその話してるとこに居合わせてさ」
「っ――」
飛び出したワードに、結月の表情が強ばる。
苦笑して、晃大は人参を飲み込んだ。
「今日改めて、そんときのこと謝られたんだよ。『そんなつもりはなかったとはいえ、御子柴先輩に対する陰口みたいになっちゃってすいませんでした』って」
「え……」
箸を止めたまま、結月は呆然と目を瞬く。
一拍を置いて、晃大は慎重に声を発した。
「なんか、事情があるんだよな? チン……撒き散らすのも、悪気があってしてるわけじゃないって、あいつ、必死におまえのことフォローしてたけど」
「そ、れは……」
困惑したように、結月は口ごもる。
「別に、言いたくないことなら言わなくてもいい。けど、一個だけ確認させて。……こうやって俺と一緒にいるとき、おまえ、いっつも無理してたの?」
大誠は結月が人一倍男への警戒心が強い理由を、過去の男関係のトラブルが原因だと言っていた。たとえばそれが鈴羽のときのような事件であった場合、そう簡単に人に打ち明けたりはできないはずだ。
口ぶりからして大誠も詳細は知らなかったようだし、自分にそれを聞く権利があるとは思えない。しかし、そうやって知らず知らずのうちに自分が結月の警戒心を煽るような――ひいては、結月の精神に負担をかけるようなことをしていたというのなら、それは申し訳ないことだと思った。
こちらがよかれと思って提案した片付けも、テニスも、食事も――全て嫌々付き合わせていただけというのなら、申し訳なさを通り越してショックですらある。
こういうとナルシストっぽく聞こえるかもしれないが、晃大は今まで生きてきたなかで、人から好意を寄せられたことこそ数あれど、ここまで明確に距離を取られた経験はほとんどない。ましてやそれが、いっとき気が合うかもと思い積極的に働きかけていた相手だったとなると、にわかには受け入れ難い事実である。
「べ、つに……無理してたわけじゃ、ないけど……」
「けど?」
訊き返すと、結月はうっと言葉を詰まらせた。
少なくとも今この瞬間おいて、結月が落ち着いて食事しているようには見受けられない。
「……無理して合わせてたのは、そっちのほうじゃん」
ぽつりと、拗ねたように呟かれた言葉を聞いて、晃大は目を瞬いた。
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