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「え?」
無理して合わせていたのが、晃大のほう……?
それは一体どういうことだ。
「もともと寮には寝に帰ってくるだけみたいな感じだったのに、早く帰って一緒に食堂行ったり、アニメ見たり……。片付けだって……俺が散らかすから仕方なく付き合ってただけで、ほんとはそんなことしてる暇があったら、友達と遊んだり、エロいことしたいとか思ってたんじゃないのか」
「エロ、って……」
なんだか、知らない間にすごい誤解を受けている。
身から出た錆か。それにしても、ルームメイトと部屋を片付けながら、頭の片隅では常にエロいことばかり考えていると思われていただなんて、さすがに心外である。
「あのなぁ……」
呆れを含んだ声を発したその瞬間、「だって!」と結月が今日一番の大きな声を出した。その迫力に、晃大も思わず背筋を正して口を噤む。
周囲に人がいない席を選んでおいて正解だった。こんないざこざを聞かれた日には、また一段と晃大の体裁が悪くなりかねない。
「アニメ……一緒に見るって言ってたのに」
「アニメ?」
「あとから電話してきたエヴァンのほう優先して、どっか行った。すぐ帰ってくるって言ったのに、全然帰ってこなかった」
「それって……」
もしかしなくても、一ヶ月前のことを言っているのだろうか。
確かに結月に避けられるようになったのは、あの出来事がきっかけだ。だからてっきり、晃大は自分の不貞が災いして嫌われてしまったのだと思っていたが、今の結月の口ぶりを鑑みるに、若干の齟齬が生じる。
……もしかしてあの日、結月は本当は、晃大にエヴァンからの誘いを断ってほしかったのではないか。すぐに済むと言ったからには、その通りなにもせず帰ってきてほしかったのではないか。そうしなかった晃大に対し嫌悪感を覚えたのはもちろんのこと、それ以上に結月は、晃大が自分ではなくエヴァンを――セックスを優先したというその事実に、深い溝のようなものを感じたのではないか。
彼女からの誘いならまだしも、相手は同じ寮に住む同学年の男。自分と一緒にアニメを見るか、その男を抱きにいくかで、晃大は後者を取った。決定的に価値観が違う人間なのだと、その時点で判断されていてもおかしくない。
実際には晃大はアニメとセックスを天秤に掛けたわけではなく、そしてもちろん、結月とエヴァンを天秤に掛けたわけでもなく、そのとき、その状況においてエヴァンを放っておくことが危険だと判断したからそちらを優先しただけなのだが、そんなこと結月には知る由もない。ただ定期的にセックスをしている相手から誘いの電話をもらい、ホイホイとそれに靡いてゆく軽い男として結月の目に映っていたとしても、それは晃大の責任だ。
日頃の行いも然り、あの日、晃大は一度でも結月にきちんとした事情を説明しなかった。電話を切ったあと、軽く断りを入れて返事すら待たずその場を立ち去り、時間が経って帰宅したあとも、ヘッドホンをつけて背を向ける結月に声すらかけなかった。
気まずかったからだ。けれどそれは、先約を反故にした側の言い訳にはならない。
嫌悪感を抱かれたとか、相容れぬ二人だったとか、それ以前に、自分が必要最低限のコミュニケーションさえ怠っていたという事実に今さらながら気がついて、晃大は愕然とした。
もう長い間ノリだけで生きてきたせいで――それが許されるような人間とばかり付き合ってきたせいで、いつの間にか、相手を理解しようとする努力も、理解してもらおうとする努力も、おざなりになっていたのかもしれない。
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