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「いつまで話し込んでんだよ。このあと部屋の片付けもあんだし、さっさと通話切って飯食えよ」  電話相手にも聞こえるくらいの声量で言い、指示に従うよう目顔で促す。結月は一瞬、驚いたように黙り込んだ後、慌てた様子で口を開いた。 「あ、えっと……っ、すみません。今俺、ルームメイトと一緒で……このあとも予定が入ってるので、今日はこのへんで失礼します……っ!」  勢いで通話を切り、結月はぎゅっとスマホを握り締めた。 「おまえの先輩ってストーカー?」  過った不穏な発想を、直接本人にぶつけてみる。 「っ、そんなんじゃない、けど……」  気まずげに、結月は視線を下ろした。  けどなんだと突っ込んで訊きたい気持ちをぐっと堪え、晃大はまた結月の皿から一つ人参を摘み取る。 「今日、マジで一緒に部屋片付ける?」  また断られるだろうかと内心構えつつ尋ねたのに対し、結月は「え?」と首を傾げた。 「今、そんなに部屋散らかってないけど……」 「は?」  なに言ってんだこいつ。少し前にジムから戻った際も、十分と言ってよいほど散らかっていたが。 「おい、適当なこと言うなよ。どう見ても散らかってただろ」 「なっ、そっちこそ適当なこと吐かすなよ! どう見ても、前より綺麗にしてるだろ!」 「は〜あ?」  むむむと、それぞれ眉間を寄せて睨み合う。  ――てかこいつ、マジで口悪いな。  普通、年上の相手に『吐かす』なんて言葉使うか。生意気にもほどがある。  ――でも……。  ふっと、鼻を鳴らして晃大は笑った。結月は一瞬、戸惑ったような表情を見せつつも、また性懲りもなく突っかかってくる。 「な、なにがおかしい! 俺はほんとに綺麗にして――」 「あー、はいはい。確かに、ピークで散らかってたときよりは『マシ』かもな。わかったから、そんなウリウリすんなって」  言いながら、晃大は腕を伸ばして結月の頭を撫でる。ふわふわした毛並み。相変わらず、ウリ坊みたいなやつだ。 「ウ、ウリウリしてるのはそっちだろ! ウリウリするなっ! このっ、このっ!」  両手を頭上に伸ばしてウリウリと抵抗するその姿に、晃大はほっと胸を撫で下ろす。 「でも、よかった」  呟くと、ぴたりと結月の動きが止まった。一体なにがと言いたげな目を向けられて、二十分ほど前の出来事を頭に思い浮かべる。 「最近のおまえが元気ないって、ジムであの男に聞かされて不安だったから。……でも、ウリウリする元気はあるみたいじゃん?」  止めていた手を動かすと、結月もはっとしたように抵抗を再開した。 「別に……っ、元気なくないし!」 「おう。なら片付けも一緒にできるよな」 「ちっ、散らかしてもないし!」 「それは無理がある」 「ウリウリもしてない!」  してるしてると、晃大は笑って繰り返した。  なんだろう、気づけば胸のあたりがすっきりと軽い。どうやらここ最近、ずっしりと重たくなっていたのは金玉だけではなかったようだ。  久々の結月との会話。というか、小競り合い。ほかの誰と話しているときよりも自然体でいられる。一方で、ほかの誰と話しているときよりも胸が弾んでいる。嫌じゃない落ち着かなさ。  この感覚はなんだろう。こういう気持ちのことを、なんというのだっけ――。 「おりゃ!」  ふいに、ウリウリと頭を撫でていた手を両手でぎゅっと握り締められ、はっとした。  さんざん晃大に頭を撫でくりまわされた結月の頬は赤く、突き出されたふっくらと小さな唇がツンと尖っている。  ――……可愛い。  どうやら自分は、エヴァンの二の舞を踏んでしまったらしい。

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