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(……いいって。そういうことされる俺にも原因あるんだろうし)
手元のズボンへと視線を戻し、晃大はおざなりな対応を取った。
開き直ってほしいわけではないものの、嘘だとわかっていることをしつこく弁解されるのも結構堪える。少しはこちらの身にもなってほしい。
(っ、わざとじゃないって言ってる!)
視界の隅、勢いよく結月が立ち上がるのに気がついて、晃大は咄嗟に顔を上げた。
キッとこちらを見下ろす、怒ったような、泣き出す寸前のようなまん丸の瞳。困惑して、言葉に詰まる。
(おまえが……出てくなんて、言うから……)
(え?)
晃大は目を瞬いた。
(おまえがっ、出てくなんて言うから!)
(……え?)
二回言われて、二回とも同じ反応になってしまった。
(最近は俺……っ、できるだけ散らかさないようにって、意識してたっ! それまではたしかに、わざと散らかしてたけど……今はほんとにっ――)
(ちょちょ、ちょっと待った結月。ストップ。……え、俺がなに? なんて言ったって?)
結月の手に握られたティッシュは、もうすっかりぺしゃんこだ。それ、オナニーで使用したやつじゃないよな? なんて下らないことを尋ねる余裕は、そのときはなかった。
(部屋、出てくって……)
(言ってない)
(もう二度と、おまえの声なんか聞きたくないって……)
(絶対言ってない)
計四回、晃大は首を横に振った。
恐らく、晃大が大浴場で大誠たちの会話を盗み聞きしてしまった日のことを指しているのだろうが、過大解釈にもほどがある。
あの日、晃大は部屋に戻るなり勢いで『もうおまえには話しかけない』『ルームメイトを解消したいならおまえのほうから一条さんに言え』『出ていくのは俺でも構わないから』と確かに言った。しかし間違っても、結月が今口にしたようなことは言っていない。
(え、なに。じゃあおまえ、本気でこれでも綺麗にしてるつもりだったのか?)
シンプルに驚いたという様子で問い返した晃大に、結月は一瞬、ムッと唇を尖らせた。
(文句あるのか!)
(ないけど)
なんでそんなに威張ってるんだ。
さておき、結果が伴っていないとはいえ、そうして結月が部屋を散らかさないよう気をつけていた理由とは、ずばり……。
(俺に、出てってほしくなかったから?)
尋ねるなり、ぱっと瞳孔を開いて結月が固まった。
(そ、れは……っ)
ポケットの中で、晃大のスマホの通知音が鳴る。結月の肩が小さく揺れるのを、晃大は一切視線を逸らすことなく見続けた。
一呼吸おいて、結月が声を発する。
(……おまえが出てったら、次、どんなやつが入ってくるかわかんないし)
(俺よりはマシなんじゃない?)
即座に切り返すと、結月はまたうっと口ごもった。
事実、ナイトクラブ勤務、同じ寮に住む年下の男と肉体関係を持つ身長百八十ある青髪の男と比べれば、大抵のルームメイトは無難だろう。
無難そうな人間に百パーセント加害性がないかと問われれば決してそうとは言い切れないし、むしろ、そういう奴に限って裏でなにをしているかわからないという底知れなさもあるけれど。……人は見かけによらないこともあれば、よることもあるし、まあ、まちまちだ。
(……そんなの、生活してみなきゃわかんないし)
(それはそう)
さらっとした相槌に、結月のティッシュを握りしめる指先から力が抜けた。少し前まで張り詰めていた空気が、それを機にかすかに和らぐ。
無言で次の言葉を探す結月を、晃大は落ち着いた表情で見つめて待った。
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