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口にした瞬間、しまったと思った。そうだった場合でも、そうでなかった場合でも、こんなことを訊くべきではなかった。
へ……と。結月はほうけた声を零し、大きな目をゆっくりと瞬く。
ぴたりと、タイミング悪く着信が止んだ。一変して、辺りがしんと静まり返る。
質問を取り下げるための時間はいくらでもあったはずなのに、晃大はとうとう、結月が口を開くその瞬間まで無言を貫くことしかできなかった。
「……大島先輩には、感謝してるから」
「感謝?」
「決定打に欠けるからってずっと補欠だった俺を、先輩がレギュラーに引き入れてくれた。こいつとダブルスが組みたい、って……」
そういえば以前、一度だけ結月とテニスをした際に晃大も感じたのだった。守備に特化している結月はシングルスで勝ち上がるのは難しいかもしれないが、攻撃に特化した選手とダブルスを組めばかなりいい線をいけるのではないかと。同じことを、大島も考えたのかもしれない。
「それはおまえの実力あってのことだろ。相手だって自分にメリットがあるからおまえと組んだわけだし、おまえが一方的に感謝することじゃない。ましてや、それってもう何年前の話――」
「でも、俺は嬉しかったから」
その一言には、外野からの意見を一蹴するだけの静かな重みがあった。
「俺と組めばおまえは最強だ、って……それからは、毎日のように自主練に付き合ってくれた。背が低くても、力が弱くても、隙をついて点を取る方法はあるからって、いろんな技も教えてくれた。中学からテニス続けてきて、俺……そんときが一番楽しかった」
ちくりと、細い針が刺さったかのような痛みが胸に走る。
――一番……。
晃大と一緒にテニスをしたあのときよりも? 大島と過ごした日々のほうが、結月にとっては価値のある時間だったということか。
そしてまた、あのテクニカルなフェイントの数々も。全て大島仕込みの技術だったのかと思うと、今までとはまた違った印象が浮かんでくる。
――なんだ、これ……。
死ぬほどもやもやするのだが。刺さった毒針が、じわじわと胸全体を侵食していくかのようだ。
「でも、先輩の引退試合を控えた高校二年の夏……」
ふっと、それを言う結月の表情が暗くなった。
「いつもみたいに居残り練習を終えて備品を片付けてると、突然、一緒にいた先輩に中から体育倉庫の扉を閉められて――」
「体育倉庫?」
反射的に問い返した晃大に、結月はぎこちなく首を縦に振った。
瞬間、ひやりと背筋が冷たくなる。頭の片隅に、垂れ下がった赤いリボンが浮かぶ。晃大の人生史上、間違いなく最低、最悪だったあの出来事。それがまさか、こんなところでも……。
「明日の試合に勝ったら俺と付き合ってくれないか、って……告白された」
「……告白?」
繰り返し、晃大は目を瞬いた。少しして、またこくんと頷き返されるなり、どっと肩の力が抜ける。
「なんだよ、ド直球で告られてんのかよ。……で、なんだ。ようは、そこで先輩を振った結果、化けの皮が剥がれてストーカーに豹変したってことか」
「違う」
即座に否定され、晃大はくっと眉を寄せた。
結月は一瞬、ためらうように息を詰まらせた後、握り締めたスマホを見下ろして重く吐き出す。
「わかりました、って……」
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