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「は?」  声が小さくて、よく聞こえなかった。 「わかりましたって、そう、答えた」  さきほどよりもいくぶんかはっきりとした口調で告げられ、激しい困惑が込み上げた。本当は一度目の時点できちんと聞き取れてはいたのだが、瞬時にはその事実を受け止めきれなかったのだ。 「なん、で……」  問い返しながら、自分は馬鹿なのかと思った。  告白されて、了承する理由なんか一つしかない。結月も大島のことを、少なからず恋愛対象として見ていたということだ。 「……怖かったから」 「え?」 「今断ったら、明日の試合どうなるんだろうとか……受け入れなきゃ、ここから出してもらえないんじゃないかとか……。今思えば、先輩がそんなことするわけないのに……。俺、テンパって無責任な返事をして……」  そこまで口にされて、晃大は初めて自分の至らなさに気がついた。  結月の言う通りだ。断ればそれ以上の危険が伴うかもという状況下では、たとえ意にそぐわない要求であろうと呑まざるを得ないと判断するのが人間の生存本能。  大島にその意図があったかどうかはさておき、事実として危機感を覚えたからこそ、結月は提示された要求を受け入れるしかなかった。その時点で大島の取った行動は脅迫および強要に等しく、そこで得た同意に価値があるとは到底思えない。言わずもがな、そのような状況でひとまず同意を示した結月に責任を負う義務もないだろう。  なにより、そこで結月がきっぱりと告白を断っていた場合、無事に帰れていた保証なんてどこにもないのだ。ひとまずその場から解放されるためにと、本能に従い要求を呑む選択を取った結月の判断は正しかった可能性もある。 「その夜は、よく眠れなかった……。先輩の引退試合なんだから気を引き締めて頑張らないとと思ったけど、寝不足で体はだるいし、ふとした瞬間に『ここで勝ったら先輩の想いに応えなきゃいけない』って尻込みして……本番は、1対6のボロ負けになった」  そりゃあ、勝てば好きでもない男と付き合わされるとなれば、残された選択肢は負け一択だろう。結月の場合わざと手を抜いたというわけではないようだが、どちらにせよ大島の自業自得だ。 「――あんだけ可愛がってもらってて、よく恩を仇で返せるよな」  しんとした室内に落ちた、刺々しい言葉。 「先輩の厚意で試合に出させてもらったくせに」  それらが結月へと向けられた部員からの非難だと気づくなり、言いようもない不快感が込み上げた。  三年の先輩に気に入られて、レギュラーに引き抜かれた二年。もっともそれは結月の実力あってのことなのだが、妬み嫉みのような感情に正当性などないに等しい。  特に男の場合、集団の中に自分より優れた男がいるということは、それだけで自分の存在意義を脅かされているも同然だ。選ばれなければ淘汰されるという生物の原理に根付いた本能的な闘争心は、隙あらば相手を蹴落としてやりたいという過激で陰湿な嫉妬心と表裏一体である。 「試合終わり、そうやって部員から責められてるところに先輩がやってきて……俺は咄嗟に、謝らなきゃって、思ったんだけど……」  なんでおまえが謝るんだと、指摘したい気持ちをぐっと堪えた。どうやら結月には、変なところで自責思考の節があるらしい。  「……信じてたのに、って」 「は?」 「そうとだけ言って、先輩は二度と口を利いてくれなくなった。もともと先輩のおまけとして試合に出してもらってた俺は、先輩の引退と同時にレギュラーから外されて、部のメンバーからも無視されるようになって……。だんだん部活に顔出すのも辛くなってきて、それから一ヶ月もせずに自分から退部届を出した」

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