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「……」  少し考えて、晃大は結月のデスクに備え付けられた常備灯に手を伸ばした。  自分の分と、結月の分。二本の傘を持ってお迎えに行くお兄ちゃんみたいな様相で、玄関へと向かう。  片方はスイッチを消せたらいいのだが、機能的に不可能なため、謎に欲張りな出で立ちになっているのが小っ恥ずかしい。一人で二つ傘を広げて歩いているようなものだ。  誰にも出くわしませんようにと祈りながら靴を履き、玄関扉を開くと、案の定、廊下は薄暗かった。エレベーターも停止しているので、仕方なく階段で五階に向かう。乾いた足音を立てながら、ようやく最後の一段を上りきった、そのときだった。 「見回りどうも、警備員さん」  横合いからかかった声に、はっとして常備灯の向きを変えた。  暗闇の中、すらっと長身のシルエットが浮かび上がる。 「一条さん」  半袖Tシャツに薄手の長ズボンというラフな恰好。片手に常備灯のみ携帯しているあたり、見回りしていたのは一条のほうだろう。 「金玉じゃあるまいし、常備灯二個も持ってどうしたの」 「は、金玉?」  じゃあるまいし、がどう繋がっているのか、理解するのに数秒、時間を要した。 「や、別に……たまたま二個あったから持ってきただけっすけど……」 「たまたま?」  流れで一緒に廊下を歩きながら、一条が問い返してくる。 「……たまたま」  なんとなく、結月を迎えにきたと言うのが恥ずかして、晃大は繰り返した。 「へえ、たまたまねぇ……」  言いながら、一条が更衣室のドアに手を掛ける。  やはり、見回りの最中だったようだ。よりにもよって、同じタイミングで、同じエリアに……。  ――俺、来る必要なかったか……?  思ったが、ここまで来て引き返すのもなんだ。さり気なさを装い、晃大も一条に続いて更衣室に足を踏み入れた。 「たまたま、たまたま……」  口ずさみながら、一条が辺りをざっと照らす。  ――いつまでたまたま言ってんだ、この人……。  訝りつつも、この人がちょっとおかしいのはいつものことなので、あまり気にしないでおくことにした。  更衣室に人影がないと判断した一条は、次に、シャワールームの扉へと手を掛ける。四階の自室からここまでの経路で一度も結月の姿を見ていないということは、必然的に、まだそこにいると思ったのだが……。  ――誰も、いない……?  足を踏み入れたシャワールームの中、それらしき人物の気配は見当たらなかった。  いやしかし、そんなはずはない。エレベーターが停止している以上、部屋からシャワールームまでのルートは一つしかないのだ。行き違いなど、まず起こらないだろう。  思い直し、晃大は注意深く辺りを常備灯で照らす。ほどもなく、最奥にある個室の扉が一つだけ半開きになっていることに気がついた。 「あれって……」 「たまたま、たまたまっと……」  しつこくたまたま言っている一条をスルーして、晃大は半開きの扉へと歩み寄る。 「結月ー、いるのかー」  そうっと手で扉を押した、次の瞬間だった。

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