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「悪霊退散っ!」
響いた声と前後して、顔面めがけて勢いよくなにかが放たれる。
「なっ、ちょっ――⁉」
晃大は咄嗟に目を瞑り、腕を使って顔面をガードした。
が、しかし。そんな咄嗟の判断も虚しく、継続して降り注ぐシャワーの雨に、晃大の上半身はびしょ濡れになってしまう。
「なんっだ、これ……っ!」
動揺している隙に、横腹めがけて勢いよくタックルをかまされて、「うおっ」という声が漏れた。よろめく晃大を押しのけて、華奢な影がささっとその場を走り抜ける。
「ちょまっ――」
すぐさま追いかけようと思ったが、今なお出しっぱなしのシャワーを前に、そうもいかなかった。電気の点けっぱなし、冷蔵庫の開けっぱなし、便座の上げっぱなし――そういうだらしないのはやめなさいと、幼少期より母に教わって生きてきたのだ。
「くそっ」
往生際悪く片方の腕で顔面をガードしながら、晃大は全開になっていたシャワーの栓を閉める。ばっと振り返ると、一連の犯人と思われる華奢な人物がシャワールームを出ていくところだった。
「待てこらっ」
髪や顎の先から水を滴らせ、晃大はたちまちその人物へと向かって走り出す。一足遅れてシャワールームから飛び出す際、暗闇に紛れて例の単語が耳を掠めた。
「たまたま、たまたま……」
「ちょ、一条さん、もうそれいいですって!」
目の前でこんな騒ぎが起きているのに、なにを馬鹿みたいにたまたま唱え続けているのか。金玉の妖怪にでも取り憑かれてしまったというのだろうか。
――妖怪……。
ん? と。走りながら、晃大は眉を寄せる。
妖怪といえば、つい二十分ほど前に結月との会話で――。
(ここのシャワールーム、十時回ったら出るらしいぞ)
(は? 出るってなにが……)
(妖怪金玉潰し)
はっと、晃大は目を見開いた。
(けっ。出るわけないだろ、そんなアホみたいな妖怪)
(いや、マジだって。タマタマ……タマタマ……ってボヤきながらドアの前までやってきて――)
――かんっぜんに俺のせいじゃん……!
おどろおどろしく語る自分の姿を思い出し、晃大は頭を抱えた。
要はなんだ。晃大のでっち上げた怪談と現実のシチュエーションが奇跡的に一致し、結月はああも取り乱しているということか。
ともすれば、すぐにでも誤解を解く必要がある。しつこくたまたまボヤいているのは一条で、晃大は間違っても妖怪金玉潰しではない。いやしかし、一条もまた、決して妖怪金玉潰しなどではないのだ。それこそたまたま、妖怪金玉潰しみたいなワードを繰り返しているだけで、そもそもそのような妖怪は存在しない。
「止まれ結月! 俺だ! 晃大だ! 危ないからそれ以上走るな!」
更衣室も飛び出て、すでにエレベーター前まで到達している結月へと、晃大は大声で呼びかける。
薄暗い廊下を真っ裸で爆走しているのだ。それこそ、転んで金玉を擦り剥きかねない。
「ううっ、うるさいうるさいっ! 騙されないぞ! 下品な妖怪のくせに、一丁前に人間のふりしやがって! ……くそっ、エレベーターまで止めやがったな! このっ!」
うんともすんともいわないエレベーターのボタンを連打する手を止めて、結月はぽこっと裸足で扉に蹴りをかます。たちまち「痛い!」と声を上げて、その場に蹲った。
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