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「結月、起き上がれ。んで、早くこれ羽織って」
言いつつも、混乱して動けずにいる結月をやや強引に抱き起こす。手のひらに触れる素肌の感触が思いのほか柔らかく、滑らかであったことは、この際、意識して意識しないようにした。……要するに、意識してしまったということだ。
起き上がらせた結月にさっとアウターを羽織らせ、包み込むように抱き上げたのとほぼ同時のタイミング。とうとう、階下から一行が姿を現した。
「ったく、ぎゃーぎゃー騒いでんのはどこのどいつだ」
――げっ、剱崎さんまでいる……。
晃大は輪を掛けて人目を憚るように、結月を抱きしめる腕に力をこめる。
「っ、晃大……」
「どうも、お騒がせしてすみませーん」
胸元で呻く結月をぎゅっと抱きしめたまま、お得意の営業スマイルで晃大は告げた。いろいろと突っ込んで訊かれる前に、大股で一行の間をすり抜ける。
「御子柴、小熊。おまえら、こんなとこでなにやって――」
すでに背後となった榊の問いは、申し訳ないが無視させてもらうほかない。一刻も早く結月を連れ帰らなければと、晃大は慎重に階段を駆け下りた。
「こ、晃大、俺……」
「じっとしてろ、服はあとで取ってきてやるから」
四階につき、左に曲がって二つ目の部屋――四〇二号室の玄関に足を踏み入れるなり、ほっと肩の力が抜けた。
ここで結月を下ろしてもいいが、ついでなのでそのままベッドのそばへと歩み寄る。片膝をマットレスに乗り上げ、そっと、シーツの上に結月を下ろした。
「……晃大っ」
すかさず身を起こした結月からさっと視線を逸らし、晃大は体の向きを変える。ベッドの足側に備え付けられたクローゼットから大判のバスタオルと着替え一式を取り出して、ぽいとベッドに放り投げた。
「風邪ひくから、ひとまずそれに着替えろよ。ロッカーの服は、今取ってくる」
一度も視線を合わせることなく告げて、「じゃ……」と晃大は足を踏み出す。一歩、二歩進んだところで立ち止まり、背を向けたまま小さく呟いた。
「……怖がらせて悪かった」
あんなふうに怯えた表情を人から向けられたのは、生まれて初めてだった。金玉だとか妖怪だとか言っているから冗談めいて聞こえるかもしれないが、面と向かって取っ組み合っていた晃大にはわかる。あのときの結月は、本気で身の危険を覚えて泣いていた。だからこそ晃大は、そうして泣き喚く結月を前に、指一本触れられないほどの困惑に陥った。
実際、体格差からすれば、力づくで結月を抑え込むことは可能だった。けれど、暴れ狂う結月に己の腕力を行使すれば、その無防備に露出した白い肌に痣をつけてしまうかもしれない。なにより、今以上の恐怖を結月に与えることになると思うと、体が石のように固まって動けなくなってしまった。
結果、手加減抜きの本気の抵抗を受けた晃大だけが一方的に殴られ、蹴られる羽目になったが、そんなことはどうでもいい。今、晃大の胸にあるのはただ一つ――まともに結月の顔も見れないほどの罪悪感、それだけだった。
人に恐怖を与えることは、同時に、自分の精神をも蝕むものらしい。あんなふうに怯える存在を前にして平気でいられるやつは、人間じゃない。ただの腐れ外道だ。
突然の停電で困っているであろう結月を心配して迎えにいったはずが、まさかこんなことになるなんて……。
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