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「……」  数秒待っても結月からの返事はなく、晃大は無言でその場を去った。  これをきっかけに、また結月との関係が悪くなるかもしれない。そう思うと、ひどく気が重かった。  ちらと横目に見たエレベーターはまだ稼働していないようで、階段に足を掛ける。そのとき、少し前にすれ違ったばかりの面々とまた鉢合わせることになった。 「おー、御子柴、ちょうどよかった」  そう言って先頭に立つ榊が足を止めると、左右に引っ付いていた双子と、斜め後ろにいた剱崎も足を止める。 「あー……ええっと?」  晃大も足を止め、踊り場に立つ一行を見上げた。  ――相変わらず、剱崎さんの迫力エグいな。  心なしか、睨まれているような気さえするのだが。 「一条さんに、おまえか結月、どっちでもいいから呼んでこいって言われたんだよ。更衣室、水浸しなんだと」  シャワーの栓を全開にして素っ裸で飛び出していった結月と、そのシャワー攻撃をもろに食らってびしょ濡れの衣服で後を追った晃大。今もまだ晃大のTシャツはぐっしょりと濡れそぼっている。 「すんません、俺行きます」 「おう。風邪ひくなよ」  ポンと肩を叩いて苦笑しながら、榊が通り過ぎる。 「風邪ひくなよチョップ!」 「アチョー!」  続いて双子が通り過ぎる際、左右から脇腹をチョップされ、「いてっ」と晃大は身をくねらせた。 「おまえらなぁ……」  人とすれ違うときは一列になれ、一列に――と恨みがましく背後を振り返るが、双子はすでに晃大のことなど忘れてぐいぐいと左右から榊の腕を引っ張っている。榊の苦労を思えば、まあいいかという気持ちになった。  ふっと肩を下ろした晃大の横を無言で通り過ぎていく、最後の人物。前を行く三人の用心棒ばりに威圧感を放つ剱崎とすれ違うその瞬間、晃大はまたはっと背後を振り返った。 「っ、剱崎さん!」  それは、ほとんど反射に近かった。考えるよりも先に声を発してしまっていて、いざ至近距離で振り返った剱崎と目が合うなり、晃大はうっと息を呑む。 「あ?」  自分より一、二段下の階段にいるにもかかわらず、こちらを見上げる視線の凄みと言ったらない。なにゆえそんな目で人を見るのか。自分はなにか、この人に嫌われるようなことでもしただろうか。それともこの人は、デフォルトでこんな人を射るような目つきをしているのだろうか。  失礼なことを考えつつ視線を斜め下へと逸らすと、すでに四階のロビーに降り立っていた榊と双子が不思議そうにこちらを見上げていた。 「ああ、いや……」  エヴァンは今、どうなってるんですか――? 一瞬でも、そんなことを尋ねようとした自分が馬鹿に思えた。  ぽたりと、濡れ髪を辿って肩に雫が滴り落ちる。 「……すんません、なんもないっす」  告げた晃大に、剱崎は表情一つ変えず、背を向けた。黙ってこちらの様子を窺っていた榊と双子から、ふっと緊張がほどける感じがしたのは、はたして気のせいだろうか。 「ねねっ、爽明! 皺袋ってなんだろう!」 「なんだろう!」 「教えて爽明!」 「教えて! 教えて!」 「こーら、腕を引っ張るなって。そういうことは将剛に訊けよ」 「ああ? 皺袋? んなの、思い当たるモンは一つ――いや、二つしかねえだろ。教えてほしけりゃチンコ出せ、チンコ」  うわー、逃げろーという双子の声に続き、遅い時間に騒ぐなと注意する榊の声。晃大はもう決して振り返ることなく、早々に五階へと足を進めた。

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