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9-10
「わ……」
咄嗟に一歩、後退ると同時に晃大は瞠目する。
……いったい、いつの間に背後を取られていたのだろう。少し前に見たときは数メートル離れたドア付近の壁に凭れて足を組んでいたはずの一条が、気づけばすぐそばに立っていた。
「探し物はこれかな?」
親指と人差し指で挟んだ輪っか状のモノをぷらぷらと目の前で揺らされて、晃大はあっと声を漏らす。さっき頬に触れたものの正体だった。
「そ、それ……」
「廊下に落ちてたよー。失くしたらシリンダーごと交換だから、気をつけて」
「す、すいません……」
いかにも、『17』と記されたそれは、結月の着替えが収納されているロッカーの鍵だった。廊下で取っ組み合いになっているときに振り落とされたのだろう。思い返せば、結月のがむしゃらの抵抗に紛れて、なにか硬いモノがこめかみのあたりに直撃したのを覚えている。
「あとこれも」
続けて差し出されたのは、二本の常備灯だった。鍵同様、廊下に置きっぱなしになっていたのを持ってきてくれたらしい。
礼を言ってそれらを受け取り、晃大はロッカーを解錠した。
「最近どうよ、マグナムライフは充実してる?」
雑談のように、一条が話を振ってくる。
――マグナムライフ……。
おそらくは、この寮での生活のことだろう。
「ああ、まあ、それなりに……」
適当な返事をしつつ、開いたロッカーの中を見てげっとした。今日、晃大が畳んでやったばかりの着替えに重なるように、ぐしゃぐしゃに脱ぎ捨てられた衣服が重なっている。
――こんなところでもだらしないのかよ……。
思ったそばから、一番上に積まれていた使用済みパンツが晃大へと向かって雪崩落ちてくる。
「わ、ちょ……」
慌てて掴み取ったそれは、よくよく見てみると裏表が反対になっていて、ちょうど手のひらに当たる位置に、俗にいう『窓』の部分がきてしまっていた。要は、間接チンコということだ。
「はは、間接チンコじゃねえか」
後ろで見ていた一条が笑い、晃大も引き攣った笑みを漏らす。しかしほどもなく、結月のチンコならまあいいかという気持ちになった。ラッキーラッキー。
「最近、寮にいる時間増えたよな、おまえ」
「はい?」
いそいそとひっくり返ったパンツを裏返していた手を止めて、晃大は振り返った。
「食堂とか大浴場とかスポーツジムとか……。ああ、誤解するなよ。なにも、二十四時間監視カメラ覗いてるわけじゃない。立場上、いろいろと情報は自然と流れ込んでくるんだ」
「はあ……」
ワンチャン、この人なら二十四時間監視カメラで寮生を観察する趣味があっても不思議じゃないなと思いつつ、晃大は曖昧な相槌を打っておいた。
高級ホテルを買い取って男子寮を造る人だ。相場の半額近い家賃設定といい、なにか裏の目的があるのでは、なんて考えが過らないでもない。ただ奉仕精神に富んだ善人であった場合、失礼な疑いにはなってしまうけれど……。
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