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「寮には寝に帰ってくるだけだったやつが、ずいぶん健全になったもんだな。夜遊びより楽しいことでも見つけたか?」  こちらを見つめる瞳は、しかし、訊かずとも答えを知っていると言わんばかりの余裕に満ちていた。興味本位で他人のプライベートを聞き出してやろうといった不躾さは感じられない。  だから、晃大は思ったままを口にすることができた。 「……楽しいことばかりならよかったんすけど」  現実はそうじゃない。たしかに今、自分は望んで外の付き合いよりも結月と過ごす時間を優先している。けれどその理由を、単に『楽しいから』の一言でまとめるには、晃大の心情は複雑すぎた。  楽しいだけじゃない。それと同じだけの質量で、言葉にできない想いは募り、晃大の心を重くする。根無し草だったあの頃とは一変、思うように身動きが取れないのだ。 「人間が、楽しくもないのに特定の物事に拘る場合、その理由は主に二つある」 「へ?」  呆けた声を零した晃大へと、一条は長い人差し指を突き立てた。 「一つ――放棄した結果、状況が悪化する可能性を恐れている」 「悪化……」  理解するよりも早く、人差し指に加えて中指が立てられた。 「二つ――継続した先に、一筋の希望を夢見ている」 「……希望」  じっと晃大の目を覗き込んで、一条は尋ねた。 「おまえのその選択は、最悪を逃れるための消極的対策か? それとも、最高を掴み取るための積極的戦略か?」 「……」  結月のパンツを握り締め、晃大はしばし沈黙する。  停電の中、結月を心配して迎えにいったがためのこの現状。すぐそばのロッカーには、今日、晃大が畳んでやったばかりの着替えが入っている。二人分の後始末を一人で請け負って、使用したモップはきっとまだ乾いていない。濡れた服に体温を奪われ、体の芯が冷えていくのがわかる。 「人生はギャンブルだ。暇なことしてっと、あっという間に大人になるぞ」  黙りこくる晃大を一瞥して、一条はぱっと表情を切り替えた。 「んじゃ、俺はまだやることあるから」  風邪ひかないようにしろよー、と後ろ手を振りながら気遣われ、思い出したような悪寒が込み上げる。くしゅんと派手に返事した晃大に、すでに数メートル先を行っていた一条がひょいと肩を竦めた。  もう早く部屋に戻ろう。そう思い、手早くロッカーの中身を取り出して更衣室を後にする。足早に帰宅した四〇二号室は、一人取り残された更衣室以上にしんと静まり返っていた。 「ただいまー。戻ったぞー」  上履きを脱ぎながら言ったが、返事は聞こえない。結月の性格上、「おかえり」なんて可愛い言葉を返してくれたことは今までも一度もないが、「か、帰ったのか!」の一言もないのは珍しい。  しかし、あんなことがあったあとでは無理もないだろう。帰りが遅くなったことも相まって、晃大は気まずい気分で部屋の奥へと足を踏み入れた。

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