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「別に、苦手じゃないし……」  このとき、どうしてだか、さっき聞いた一条の言葉が頭を過った。 (人生はギャンブルだ。暇なことしてっと、あっという間に大人になるぞ)  ……一理あるだろう。だからといって、鵜呑みにするわけにはいかないが。  賭けに出た代償が、自分一人で背負えるものならまだいいのだ。けれど大島の一件がある以上、被害はそれだけでは済まないかもしれない。晃大が最も恐れていること――。それは、結月を傷つけることだった。  でもだったら。こうして伝えることのできない想いを秘めながら、一ルームメイト面して結月と関わり続けるのは、一条で言う『消極的な選択』でしかないのだろうか。想いを打ち明けて、拒絶されるのが怖いから。傷つけるのが怖いから、現状維持に努めている、と……。  あながち間違ってもいない気がした。というか、ずばりその通りなのだろう。一条に言わせれば、自分は今『暇なこと』をしているのかもしれない。  進展のないものへの投資。それでも結月といたいんだ、なんて言っているうちに、結月に彼氏――否、彼女ができてしまう可能性だってなくはない。そうして投資先そのものがいなくなってしまったとき、はたして自分は後悔しないと言えるだろうか。あのときもっと早く手を打っていればと、そう思うのではないだろうか。思わないのだろうか。  わからない。けれど、それがために結月を傷つけるかもしれない賭けに出ることは、やっぱりできない。してはならないことだとも思う。  ――けど……。  思い返してみれば、一条はなにも、フルベットで勝負に出ろなんて一言も言ってはいないのだ。彼はただ、賭け金も払わず皺袋ぱんぱんにして台の前に座っている晃大に釘を刺しただけに過ぎない。  少しずつ、相手の様子を見ながらチップを増やす。危ないと思えば、その時点で降りればいい。……そうだ。選んで結月との関係を継続している以上、一筋の希望は常に抱いているべきだ。  少しずつ。少しずつでいい。危なければ降りる。危なければ、そこで降りるのだ……。 「苦手、なんだったらさ……」  声を潜め、まるで内緒話でもするかのように、晃大は囁きかけた。 「今日、俺と一緒に寝る?」 「……は」  ぽかん、という擬音語がぴったりの反応だった。  咄嗟に『しまった』という思いが込み上げたが、ここで焦ってはおしまいだ。晃大はなにも、セックスしようぜ、なんて言葉を口にしたわけではない。ここで言う『寝る』は、言葉通りの『寝る』だ。変に焦ってみせるほど、変な解釈をされかねない。 「い、嫌なら別に、無理にとは言わねえけど。俺、妹いるって言ったじゃん? 今年で中一だから、かなり歳、離れてんだけど、妹も雷苦手でさ。停電もそうだけど、特にあの音が無理みたいで、当時はよく、耳塞いで一緒に寝てやってたんだよ。ああ、『よく』って言っても、雷の日だけだから勘違いすんなよ。でさ、貝殻を耳に当てると、波の音がするって言うじゃん? いきなりなんの話してんだよって思ったかもしんないけど、聞いてくれ。あれって結局、隙間に入り込んだ空気のノイズらしいぜ。それが、貝殻の空洞を通して共鳴してるんだと。なにが言いたいんだって顔してるな。けど、大事なのはここからだ。おまえ、1/fゆらぎって知ってるか? それこそ波の音とかがそれにあたるらしいんだけど、これがまた、人をリラックスさせる効果があるとかなんとかで、波の音がそうなら、波の音に似てる貝殻の音もきっとそうだと思わないか。そんでもって、貝殻を耳に当てたときの音っていうのは、手で耳を塞いだ時の音とも似ているんだよな、これが。つまり、俺がなにを言いたいのかっていうと――」

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