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「ま、待て待て待て。な、なんだおまえ。急になにをベラベラと――」  遮った結月の声をさらに遮るように、窓の外でまた大きな雷鳴が轟いた。  ビクッと肩を跳ねさせて、結月がまた両手を耳に押し当てる。一秒、二秒。固まって力が抜けない結月の手の甲に、晃大はそっと自身の手のひらを重ねた。  耳に手を添えたまま、結月がおずおずと顔を上げる。 「なに、して……」 「そっと、包み込むだけでいいんだ。貝殻を当てるみたいに、そっと。そしたら、聴こえてくるだろ? さーって、さざ波みたいな音が」  結月は口を噤み、それからそっと目を閉じた。  しばらくの時が経って、 「……聴こえる」  ぽつりと落とされた言葉に、「だろ?」と晃大は笑みを零す。結月はまだ少し不機嫌そうだったが、このくらいなら、まだ取り返しがつくと思った。 「な、こうしててやるから、今日は俺と一緒に寝ようぜ。なんか俺、さっきからちょっと肌寒いし」  言ったそばからくしゃみが込み上げて、必死に押し殺した。フスッという消化不良な音が鼻の奥で鳴る。 「か、風邪ひいたのか?」 「いや、ちょっと体が冷えただけ。俺のことはいいからさ。……こうしてると落ち着くだろ?」  耳に手を当てたままの晃大に、結月は少しの間、考えるように黙り込んだ。その間もずっと、結月の耳にはさざ波が流れているはずだ。 「そこまで、言うなら……」  おおっ。 「一緒に、寝てやらないこともないこともない……ことも、ない」 「どっちだよ」  笑って返しつつ、内心ではガッツポーズを決めていた。  今までの人生、ベッドの誘いに了承が下りたことに、ここまでの喜びを覚えたことはない。それも、男相手に、本当にただ『寝る』だけの行為でだ。どうやら自分は、本気で結月に惚れているらしい。  ベッドは結月のものではなく、晃大のものを使うことにした。特に深い意味はないが、結月がやっぱり嫌だと感じたとき、逃げ道を残しておく必要があると思った。  先にベッドに横になった晃大が、片腕を伸ばし、とんとんとシーツを叩く。結月は困惑しつつも、ややあってそっとベッドに乗り上げて、晃大の腕に頭を下ろした。  ふわりとした髪の感触が、腕を擽る。それをひどく、心地よいと感じた。  不思議と、性的な感情は抱かなかった。数十分前、ここで結月のことを考えながら自慰に耽りかけていたのが嘘のようだった。  部屋には、窓の外で吹き荒れる雨の音が響いていた。たまにゴロゴロと唸る雷の音も聞こえる。部屋の中心にかけられた備え付けの掛け時計の音はほぼかき消されているが、耳を済ませれば聴こえないこともない。それらの音、ひとつひとつを優しく共鳴させるように、晃大はそっと結月の耳を手のひらで覆った。  不安そうにこちらを眺めていた結月の瞳が、ゆっくりと閉じられる。少しだけ安心したように、こつんと胸元に額を寄せられる。  静かな夜の波打ち際。耳を澄ませて佇む青年のような、穏やかな表情。  眺めていると、ふいに切なさが込み上げた。初めての感覚だが、どこか懐かしい。それは性欲をも上回る、人間の根源的な感情のように思えた。  やがて、腕の中から小さな寝息が聞こえ始めて、我に返った。おやすみを言えなかったことを、ほんの少し後悔した。

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