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「ごめん、寝てた?」
だとしたら、悪いことをした。応答が遅れたのも、寝ていたからだったのかもしれない。そう思ったが、
『漫画読んでた。先輩かと思って無視してたけど、よく見たら晃大だった』
晃大の予想は一も二も外れていて、端的に告げられた事実に、一瞬、言葉にできない喜びを覚えた。
「……俺で安心した?」
スマホ越し、そっと問いかけると、焦ったような声が返ってくる。
『べっ、別にっ、もとから不安になんかなってないし!』
「そっか」
軽い相槌を打って数秒、「けど俺は安心した」と晃大は付け足した。
『な……なんだよ、急に。意味、わかんないし……』
本当に――?
本当に、晃大の言動の真意が、結月には伝わっていないのだろうか。
一条に助言めいたことを言われた日から、晃大はたびたび、こうして賭けに挑んでいる。危なければそこで降りようと注意を払いながら、一枚ずつ、チップの枚数を増やしている。
けれど、返ってくる反応はいつも同じだ。意図的か否か、結月はいつも、晃大の好意をあってないもののように跳ね返す。
「夏休みのうちにさ、また一緒にテニス行かね?」
『は、テニス?』
わざわざ電話してきて言うことか、という怪訝さが声に滲んでいた。けれど気にせず、晃大は続ける。
「実家に置いてるマイラケット、持って帰ろっかな。んで、今度は回らない寿司賭けて勝負しようぜ」
『なにっ⁉ おまえだけマイラケットなんてせこいだろ! ハンデを要求する!』
「たとえばどんな?」
『おまえが勝ったら回る寿司! 俺が勝ったら回らない寿司だ! いいな!』
試合の有利不利には直接関係しないハンデだった。
「ああ、そんなんでいいんだ。じゃあ結局、回る寿司に行くことになるんだろうな」
『なんだとっ!』
電話の向こう、ウリウリと怒る結月の姿が目に浮かぶ。それだけで、自然と口角が上がった。
「てか、おまえもラケット持って帰ってこいよ」
『んん……どこにしまったか忘れたし』
「捨てた?」
『いや、捨ててない』
「じゃあ探して持って帰ってこいよ」
『えー、面倒臭いなぁ』
仰向けになり、目を瞑って結月と会話した。これといった要件もなく掛けた電話だが、その後しばらくも、くだらないやりとりが続いていた。
やがて、どちらからともなく返事が間遠になってゆき、部屋を静寂が包み込んだ。完全に意識が途切れるその寸前まで、耳元に置いたスマホを通じて、結月の存在を感じていた。
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