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思わず、引き留めてしまった。朔実に続き、すでに三十度くらい体の向きを変えていたエヴァンがこちらを振り返る。なに? と視線で尋ねられ、すぐには言葉が浮かばなかった。
「いや、その……」
言いよどむ晃大にもう一度だけ会釈をして、朔実は無言でその場を去っていった。
広く静かなロビーに、エヴァンと二人。自ら望んだ状況とはいえ、どこか気まずい。エヴァンと話すのは、二ヶ月以上も前に電話で呼び出され、セックスをして泣かせてしまった日以来だった。
「……あいつの実家ってどこなの? 青山県とか?」
とりあえず、当たり障りない話題を振って、場を和ませようと試みた。
「どこそれ、岐阜県だけど」
「青山知らないのか」
「青森なら知ってる」
「さすが特待生」
ふんふんと頷いてみせながら、どうやら青山県なんて都道府県は存在しないことを知った。いやもちろん、最初からそのくらいのこと知ってはいたが。
「俺もちょうど、実家から帰ってきたとこなんだよ。つっても、千葉だからすぐそこだけど。土産、食堂に置いとくから適当につまんでくれよ。てか、まあ、そんなことはどうでもよくて……」
もともと、こんな立ち話をするような間柄ではないのだ。じっとこちらを見つめるエヴァンの顔には、「で、本題はなに?」とわかりやすく書いてある。相変わらず、ギリシア彫刻のように整った顔だった。
「あいつと付き合ってんの?」
「うん」
迅速な肯定だった。最初から、その質問が来ることを察していたのだろう。
「好きなんだ? あいつのこと」
「じゃなきゃ付き合わないよ」
当然のことみたいに言う。けれど自分たちは、これまでにもう数えきれないほど、体を重ねていた。好きでない相手と寝ることは、互いにとって、いとも容易いことだったはずだ。
「なんか、置いてかれた気分だな」
苦笑して、晃大は吐露した。
「なんで? 俺じゃなくても、セックスの相手くらいいるでしょ」
「そういうことじゃなくて」
そういうことじゃないことくらい、エヴァンはもう、わかっているはずだ。それに――。
「俺別に、おまえのこと、セックスの相手としか見てなかったわけじゃないし」
「どういうこと?」
妙な間合いなど取らない、淡々としたテンポ。こういうからっとしたところがエヴァンらしいなと思う反面、きっとエヴァンには、まだまだ晃大の知らない一面もあって、朔実はそれを知ったうえで、エヴァンと交際するに至ったのだろうなと思った。
普段、表に出すことのない一面。そういうのを自然と引き出して、受け止めてくれる人。エヴァンにとって朔実は、そんな人だったのかもしれない。
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